変動費から固定費への切り替えと逆ざやリスク

 

 ユナイテッドアローズのECはZOZOTOWNに加えてZOZOに運営委託した自社ECが10年3月期以降、急拡大して11年3月期には約90億円を売り上げ、EC比率も10.6%に達したが、ZOZOTOWNが75%、ZOZOに運営委託する自社ECが15%の計90%を占めていた。17年3月期にはEC売上げが202億円と大台に乗ってEC比率は16%に達し、自社ECも40億円を超えたが、 ZOZOTOWNが60%、自社ECが20%とZOZO依存は依然80%と高止まりしていた。19年3月期ではEC売上げは237億8000万円、EC比率も19%に迫ると見込むが、第3四半期までではZOZOTOWNが50%、自社ECが27%の計77%とZOZO依存が解消されたわけではない。それでもZOZOと袂を分かつのはなぜだろうか。

 ZOZOTOWNの創業期に出店した著名セレクトチェーンの販売手数料率は22〜24%と、35%以上といわれる近年の新規出店アパレルに比べれば格段に優遇されている。そんな著名セレクトチェーンの自社ECに対するB2Bサービスの販売手数料率は20%を下回るはずで、ユナイテッドアローズは最優遇されていた。

 ユナイテッドアローズの自社EC売上げは19年3月期見込みで64億円強と推計されるが、ZOZOTOWN以外のモール店舗の受注を自社ECのフルフィルに乗せれば倍近い規模の取り扱いスケールになる。当社が検証してきた内外アパレルチェーンの自社EC運営コストを見る限り、64億円で自社運営に切り替えれば売上対比運営経費率は25%前後になってしまうが、120億円なら20%強に抑制できる可能性がある。となれば、新たな自社運営ECではZOZOへの運営委託と比べての逆ざやも許容限度に収められる。

 そんな目算を示すのが『ZOZOには売上げの一定割合を手数料として支払ってきたが、新体制ではシステム使用料を固定し売上げの拡大とともにコスト率が下がる仕組みとする』という発言だ。運営委託ではどんなに売上規模が拡大しても手数料率は下がらないが、固定費化すれば売上げの拡大とともに加速度的にコスト率は下がっていく。当たり前のことだが、問題はその反転時期だ。

 当社の推計では新体制の運営コスト率がZOZOへの運営委託手数料率を下回るには自社EC売上げ(フルフィル活用のモール売上げを含む)が300億円を超える必要があるが、年々30%伸ばしても4年を要する。それまでは自社ECが経費増で減益するリスクを抱えるが順調に伸びれば杞憂に終わるし、連結経常利益が100億円を超えるユナイテッドアローズにとっては戦略的に吸収できる範囲と思われる。

オムニコマースの戦略的必然性

 ZOZOへの委託運営から新たなパートナーと組んで自社ECの自社運用に転ずれば、数年間は逆ざやを覚悟する必要がある。それでも踏み切るのはこれ以上、ライバルたちに後れを取れないからだ。

 大手セレクトではベイクルーズグループがデータ的にも物理的にも在庫運用の一元化を実現し、エンジニアチームを抱えて内製運営する自社ECがEC売上げ335億円の過半を占め、EC比率も28.2%に達する。アダストリアが333億円、ワールドが308億円、TSIが289億円と続くが自社EC体制はベイクルーズに及ばない。ユナイテッドアローズはEC売上げではTSIに続くが自社EC体制が立ち遅れ、店舗スタッフの参画という点ではEC売上げ160億円(EC比率20.1%)のビームスにもリードを許している。エンジニアチームも抱えず自社ECをZOZOに依存し続けるユナイテッドアローズはライバルとの競争から落ちこぼれる寸前にあったと言っても過言ではなかった。

 有力アパレルのオムニコマースは顧客と在庫を店舗とECで連携するというスタートラインから、店舗をECのプラットフォームに乗せて選択やお試し、決済や受け取りの利便を最大化するというC&C(クリック&コレクト)の段階に移行しており、店舗とECを一元一体に運用できることが店舗を持たないEC専業者や一体運用できない店舗小売業者に対する決定的アドバンテージとなりつつある。

 C&Cではこれまでのアプリサポートやタブレット接客に加え、EC注文品の受け渡しや返品対応、ピッキングや宅配出荷といったマテハン負荷がかかるから、スタッフ構成を見直し、ピッキングロボなど設備投資を加えて店舗運営を再構築する必要があるし、売上げもECと店舗、店舗と個人にどう計上するか、社内のガバナンスに加えて商業施設デベとの擦り合わせも必要になる。加えて、店舗在庫までECの注文に引き当て、店から宅配出荷するケースが広がれば、在庫コントロールのアルゴリズムも一変してしまう。

店舗がキーデバイスとなる

 クリック&コレクトなオムニコマースでは、在庫を抱える常設店舗にせよサンプル在庫だけのショールーミングストアやポップアップストアにせよ、試して受け取れる店舗がキーデバイスとなるから、ECプラットフォームのフロントとバックヤードだけでは対応できない。パーソナルな人的対応と物理的なマテハンがECやAIと連携する“店舗”が不可欠になるのだ。

 そんなC&Cを機動的にサポートするには店舗運営とロジスティクスに通じたインハウスなエンジニアチームと物流体制が不可欠で、外部に開発と運営を委託する体制では突破口がなかった。今回の体制変更ではインハウスなエンジニアチームを抱えるわけではないが、新たなパートナーとの密着した運用で解決を図る。ZOZOへの運営委託を解消するというユナイテッドアローズの決断は、むしろ遅きに失したのかもしれない。

 アパレル以上に鮮度とスピード、デリカシーが問われる生鮮食品の分野ではアマゾンやアリババがスーパーマーケットチェーンを買収したり出資してAIとITで再武装し、C&Cサービスの拠点(アパレルの何十倍も必要)としているが、アパレル分野でもC&Cを担う拠点を確保すべくECプラットフォーマーがアパレルチェーンを買収してもおかしくない。

 ZOZOがZOZOSUITとPBに投じた大枚をC&C拠点の布陣に投じていたとすれば、あれほど株価が下がることはなかっただろう。オムニコマースシフトに戦略を集中しなかったZOZOの失ったものはあまりに大きく、挽回はもはや難しいかもしれない。その全ての要因は前澤氏を支える知恵者とガバナンスの欠落にあることは言うまでもあるまい。