NRFイノベーションラボ出展企業のスマートシェルフ(棚什器)のプレゼンの模様[出所]全米小売業協会

 今回のNRFでは、本シリーズで既報の通り、レジレス、フルフィルメントやロジスティクスの一部完全自動化、店内ロボット導入などのようにグローサリービジネス領域での次世代小売フォーマットについての講演が多かった。これは昨年のアマゾンゴーが、オンライン・インストア両面での顧客経験変革の起爆剤となったことの表れではないだろうか。

 NRF最終日のイノベーションステージでは、「2030年にグローサリーはどのようになっているか」というテーマで、カンター・コンサルティング社戦略アドバイザー、デビッド・マーコット氏とクラウドレイカー社リテールストラテジスト、カール・ブテット氏が登壇した。以下は、コカコーラ・リテ―リング・リサーチ審議会とカンター社が行った2030年の食品業界予測調査をもとに作成した、2030年の食品購入のシナリオ(概略)だ(プレゼン資料原文は記事の最後にあります。出所:全米小売業協会ビッグショー2019)

左よりカンター・コンサルティング社戦略アドバイザー、デビッド・マーコット氏とクラウドレイカー社リテールストラテジスト、カール・ブテット氏 [出所]全米小売業協会

スマートホームとスマートリテーラーの統合

 消費者はエピキュリアン(快楽主義)となり、①「バリュー」、②「シンプルであること」、③「独自性があること」を小売業者に求めていく。

 2030年には、食品購入はスマートホーム、家から始まる。米国では既にアマゾンエコーやグーグルホームで食品を含む商品を買えるが、今後、家電のIoT化の進展・普及に伴い、多くの消費者はモバイルやIoT化したキッチン家電、スマートスピーカーを使って、食事のメニュー、冷蔵庫内の食品在庫の確認、補充および追加購入品リストを自動的に作成する。

 スマートホームとスマートリテーラーは既に統合されており、家を出る前に作成したリストに従って自動発注が行われている。家を出て店に近づくと、モバイルやスマートカーに販促情報が出てくる。店内ではスマート什器やスマートショッピングカートが買物の手伝いをする。自宅で自動購入した商品は買物の最後にピックアップする。買物中にカートは購入品目をAIで分析して、パーティだと判断されればそれの関連商品を推奨し、顧客には利便性を、小売業者側は客単価向上をもたらす。

ワイン売場に近づくとショッピングカートのモニター上の推奨ワインや商品情報が出てくる(プレゼン資料より) [出所]カンター・コンサルティング社資料を筆者撮影

 高齢化社会では子供の家で世話になるのではなく、自分の家で過ごしたいという人が増えているため、高齢者が自立して生活するための近隣コミュニティが重要となってくる。スマートホームが高齢者のためにスマートリテーラーにモノやサービスを発注したり、世話をするという状況が出てくる。

 このようなスマートホームとスマートリテーラーの統合は、顧客のロイヤリティを高める効果を生む。

ロボットとヒトの共生世代に必要な新たな従業員スキル

「スマート」にはヒトとロボットの共生がある。AIやロボットはヒトに置き換わることはない。ヒトの延長として、ヒトの能力を高め、効率化する。店舗の場合でも人はより質の高い仕事にシフトする。人件費の観点からは従業員数が減ったり、ロボット導入によって保険などは下がるかもしれない。

 企業文化自体がスマートで、顧客にベネフィットを与えなければならない。10年後の従業員はこういったスマートリテーリングを実現するために不可欠なスキルをもっていなければならない。それは、4Pやマーケティングとマーチャンダイジングだけでなく、コンピューターサイエンスやAIなどの知識が必要となってくる。企業内ではこれに対応する教育が必要だ。

 ……というシナリオなのだが、これは2030年というより、米国の都市部では既に始まっている生活シーンではないだろうか。例えば、筆者は12個入りトイレットペーパーや重い液体洗濯洗剤などは、大抵買い置きを忘れるので「しまった!」と思ったときにスマートスピーカーで補充購入するが1時間以内に届く。病院に行って薬を処方されたら、医師がパソコンから患者が指定するファーマシーに処方箋を送り、病院の支払いも後日オンライン決済なので、診察が終わったらすぐにレジレスで帰宅する(これは体調が悪いときには本当にありがたい)。

 衣類購入であれこれ迷うのも面倒なのでオンライン・パーソナルスタイリングサービスを利用し、簡単にそれらしいファッションを着たり借りたりしている。もちろん、実際に見たい商品があるときには店舗に出向くが、オンラインストアに在庫があればモバイルで買う。持って帰るのが面倒だからだ。

 今は点在しているスマートが小売・流通全体にネットワーク化したら、店舗には、①実際に見る・触る、②なじみの店員さんと話をしに行く、③別の用件で移動中にたまたま店の前を通りかかる、④なんとなく街をブラブラしたいから、という目的でしか行かなくなるだろう。そのときに求められる店舗とはどんなフォーマットなのだろうか。

 未来型小売業は既に始まっており、「小売事業のスマート化をどのように進めていくのか」「スマート化に投資しない場合にも生き残りの道はあるのか」が今後の争点となっていくのではないだろうか。

<全米小売業協会ビッグショー2019でのプレゼン資料)>