世界38カ国・地域に輸出するなど日本酒のグローバル化を進めている(株)南部美人(本社/岩手県二戸市、代表/久慈浩介)ではフードダイバーシティ(食の多様性)に先見的に取り組んでいる。

 同社では、今年1月25日にヴィーガン認証を国内外の両方で取得した(国内:特定非営利活動法人べジプロジェクトジャパン、海外:The Vegan Society)。これらはアレルギーフリーを約束し、食の安全・安心を意味している。

 ヴィーガンは卵や乳製品を含む、動物性食品を一切摂取しない「完全菜食主義者」のこと。ヴィーガンとなるきっかけはさまざまあるが、海外では健康や美容、メンタルのセルフメンテナンスのためにライフスタイルに取り入れている人も多い。

言葉や宗教、思想の壁を超える認証マーク

ウィーガンとコーシャ認証が入った南部美人

 このような取り組みは、2013年にユダヤ教の食の規定であるコーシャ認証を取得したことから始まった。理由について、同社代表取締役社長の久慈浩介氏はこう語る。

「海外で日本酒を飲んでくれる外国人は、日本が好きで、日本食が好きという人です。私はこのような人以外の外国人に日本酒を飲んでもらう方法がないか、これまで常々考えてきました。

 そんな中、業界の先輩がコーシャ認定を取得したことを聞き、それをきっかけにアメリカを訪ねるたびにコーシャのマーケットをのぞくようになりました。そこに買物にくる人たちのほとんどがユダヤ教の人ではなく普通のアメリカ人でした。

 その理由はコーシャ認証のマークは、食の安全・安心のマークだからです。そこでコーシャ認証を取得することは、『食の安全・安心』を求める市場に入ることだと気付きました」

 久慈氏にとってコーシャ認証を取得してからは、フードダイバーシティの世界が開けていき、ヴィーガンに着眼するようになった。ヴィーガンのマーケットもコーシャと同じようにヴィーガンだけではなくヴィーガンの食品になじんでいる「ヴィーガンライク」の人がたくさんいることに気付いた。

 そして、コーシャ認証に続いてヴィーガン認証を取得することは、外国人に向けて日本酒を広める足掛かりとなると確信を持った。

ウィーガン認証

 久慈氏は「外国人には、日本酒のラベルを見たところで、これはおいしいものなのか、原材料に何を使用しているか、どのようにして造られているのか、ということは伝わりにくい。

 しかし、コーシャやヴィーガンのマークがついているだけで、『このお酒は安心して飲むことができる』ということは伝わります。

 これらの認証マークを付けることで、言葉や宗教、思想の壁を超えた大きな市場の中に入っていく。日本酒が世界で戦っていくための手法の1つなのです」

 ちなみに同社では小麦タンパクのグルテンを使用していないことを示す「グルテンフリー」の認証も申請中である。

日本酒全体の価値を高めるためには

 南部美人の2018年の生産量は3500石(1石約180ℓ)で、そのうちの約20%を輸出している。このうちの30~40%がアメリカで流通している。アメリカで日本酒を求める人は「日本が好きで、日本食が好きで、日本酒を飲んでいる」という人である。今回取得したヴィーガン認証のマークを付けることで、ヴィーガンよりもはるかに多いヴィーガンライクの目に届くことになる。

 南部美人のヴィーガン認証取得には1年間近く掛かり、費用は代理人を通じて60万~70万円を要したという。それなりの労力とコストがかかるが、これを獲得することによるメリットは絶大である。

(株)南部美人 代表取締役 久慈浩介 氏

 久慈氏はこう語る。「認証マークとは、食の安全・安心を保証するものであり、どんな人でも普通に取得できるものです。当社だけでなく日本酒の酒蔵が10社、100社と取得して認証マークを付けていけば、グローバル社会において日本酒全体の価値を高めることになるのです」

 海外の高級市場では近年、有機、オーガニック(BIO)は「この商品は遺伝子組み換え食品を使用していない」ということを意味する「NON GMO」などを表示する食品が一般的な状態になっており、健康・天然・無添加の潮流となっている。日本酒がこれに加わることで市場はさらに拡大するだろう。

挑戦的な取り組みの先に見据えるもの

 同社は酒のコンペティションにおいて挑戦的であることは、以前から有名だ。鑑評会(日本酒などの味や品質を鑑定する会)では常にトップクラスを占めている。

南部美人のロゴ

 中でも日本最大の杜氏(日本酒の醸造工程を行う職人集団)派閥である南部杜氏自醸清酒鑑評会で2001年、2002年と2年連続首席1位(合計4回)。

 2016年、仙台国税庁主催の秋の東北清酒鑑評会で、吟醸酒(60%以下に精米した白米を低温で発酵させた清酒)部門で第1位となる「最優秀賞」、純米酒部門で第2位となる「評価員特別賞」とダブル受賞。日本最大の市販酒コンテストである「サケコンペティション」の新設された発泡清酒部門で2017年、初代「第1位」を受賞、2018年も連続でゴールド1位を獲得。

 また、中小企業創造技術研究開発事業補助金の認定を受けて、麹だけで造る新しいタイプの日本酒の研究に取り組んでいる。

 海外では「モンドセレクション」でゴールドメダルを8年連続で受賞。ロンドンで開催される世界最大のワインコンテストである「インターナショナルワインチャレンジ」2017年の日本酒部門で、世界一の称号である「チャンピオンサケ」を受賞した。

 このような酒造りへのポジティブな取り組みが、グローバル化の潮流を読み取り、販路拡大の施策を豊富にしているのではないだろうか。