NHKの情報番組「あさイチ」の、年明け1回目の放送は「みそ」の特集だった。

 ”日々の食卓を豊かにする調味料”として新しい調理方法から保存方法、基礎知識や健康への好影響などを伝えていたが、その番組に限らず、最近よくテレビでみその特集を見かける。「美と若さの新常識~カラダのヒミツ」(BSプレミアム)のみそ特集では、「味噌汁は食べる美容液」というフレーズが忘れられない。みそは健康や美容にいい調味料として、今また注目され始めている。

 反面、みその消費量は減り続けている。総務省の「家計調査」によると、昭和57年には1世帯当たり年間12キロ購入されていたのが、平成28年にはその半分に。朝ごはんにはみそ汁……という家庭も食習慣の変化で減っているだろう。

 みそは日本の伝統食だ。縄文時代の「どんぐり味噌」に始まり、戦国時代になると兵糧として用いられ、武田信玄はみそ作りを奨励し、伊達正宗は日本初のみそ工場を建てて仙台みその礎を築いた。江戸時代には庶民に向けたみその販売も始まり、戦争中にみそ作りが米を消費すると禁止された時期を除けば、みそは日本で古来、長く愛されてきた。

 今、みそをどう売るべきなのだろう? 

 昨年11月、本サイト編集長はメルマガで「この商売の方法でいいのか?」と問い掛け、とあるインディペンデント系スーパーマーケット(SM)の催事での「みそ、盛り放題」を話題にした。みその安売り盛り放題は「味を知ってもらってブランド・スイッチしてもらうきっかけ」にはなり得るものの、「買った人が使い切った後にまた買ってくれるのか?」「ただの安売り」に受け止められて終わらないか?と疑問を呈していた。

 消費が減り続けても欠かせない伝統の味。それをいかに守り、売るか? みそ業界も模索の中にあるのだろうか? みそを作り、売る、その現場へ行ってみた。

練馬区にある都内唯一のみそ蔵「糀屋三郎右衛門」

 

 まず訪れたのは、みそを製造販売するみそ蔵……といっても長野や仙台ではない。東京練馬区・中村にある「糀屋三郎右衛門」。明治の中期から茨城でみそ屋を営み、大正12年に上野に移転。そこが手狭になって昭和14年、今の練馬区・中村にみそ工場を作り、その後に販売もここで行うようになった。今現在、都内でみそを作る、唯一のみそ蔵だ。

「都内にはみそ屋が結構あるんですが、工場はみんな都下に移っています。中野に信州一の東京工場もあったし、港区にもみそ屋の工場がありました。でも、都心じゃ工場やるよりビルにした方がいいでしょう。うちはたまたま地理的に残ったんですよ」

 お話を伺ったのは、7代目の辻田雅寛さん。現在は辻田さん夫妻と義兄弟の4人で営んでいる。工場は都下に移しても中小のみそ屋が今現在、都内には14軒ある(東京都味噌工業協同組合に加盟しているところ)。

 

「東京でみそを作って売るのは大変厳しくなっていますが、うちは東京でやっていることでお客さまに驚いたり、喜んでいただけるプラスの反応が得られ、価値を感じています。東京発のみそ、ということに誇りも感じます。知らない人も多いですが、東京には『江戸甘味噌』という郷土みそもあります。ふろふき大根とか田楽とかにいい、みそ汁用というよりは料理に合うもので、色が赤くて濃い甘い味です。うちは父があまのじゃくで、『みんながやってる江戸甘味噌より、白い甘味噌系が東京でも食べられた方がいいだろう』って、江戸甘味噌は作ってこなかったんですけどね」

 都内唯一の味噌蔵となった糀屋さんは多方面で注目され、取材に伺った日にも別の取材陣が訪れてもいた。今では東京を代表するみそ屋だ。どんなみそを作っているんだろう?

誰もがおいしさを感じられる“東京らしい”みそ

「うちは多品種、少量生産で今は8種類のみそを作っています。仕込みは全部バラバラで面倒くさいといえばそうですけど、お客さまの好みはいろいろですから、ニーズに応えられる可能性が高まりますよね。それに、うちの技術力のアピールにもなります。

 味でいうと、うちのみそは特徴がないのが特徴なんです。ある程度どこの人でもオールマイティーに、どんな舌でもおいしさが認識できるよう、主張がないみそを考えています。それは東京っぽいともいえます。いろんな地方から上京してきた人たちが集まる東京で、誰が食べてもおいしさを感じてもらえるよう、作っています」

 言われてみれば、「ああ、そうだ」と気づくが、みそはとてもドメスティックな調味料だ。仙台みそ、西京みそ、信州みそ、愛知の豆味噌、九州の麦みそ、それぞれ地域性があり、他の調味料と違って「郷土食」である。それぞれの人が出身地ごとに、自分のみその味を覚えている。そういうものだ。

「みそはその郷土性から地域を超えて波及しづらいものなんです。長野なら長野のみそ。仙台なら仙台みそ。今はハナマルキさんなど大手のものがスーパーマーケットに並んでいますけど、それでも全国制覇は難しい。みそは閉鎖的な郷土食です。だからこそ、うちのような中小のみそ屋がそれぞれの地域で生き残ってるんです。地域の味を守り、それを他の地域にまで広げようとは思わない。地域ごとに慣れ親しんだ味があるわけです」

 みそ作りは重労働だ。1回に米150キロほど仕込み、米麹が完成するには3日ほど35~36℃に保たれた「むろ」に入れて発酵させる。それを大豆と塩と合わせ、みそ600キロが出来上がる。「大豆を蒸して仕込み桶に仕込むまで1工程が1時間~1時間半。平均作業時間は6時間ぐらい」と、これは腰と腕が大変そう!な作業が続く。特に暑い夏場は大変だとか。

 

「みそ作りは昔から何も変わりません。基本的に『微生物にお願いして』できるもので、常に同じ味を安定して作るのが難しいものです。いつも同じ味が提供できるわけじゃないことを理解してもらいたいです。買ってきて食べて、置いとけば味も色も変わる。そいうみそへの理解も深めてもらいたいと思っています」

 辻田さんは頼まれて地域の小中学校などでみそを作り教室を開いたり、みそについてのレクチャーをしたりと、みそ教育、普及活動にも熱心に回っている。まずは「みそとの出会い」の場を作ることに取り組んでいるのだ。

「効果があるかどうか? そうですね。校長先生にはいつも『またお願いします』と言われますから、それなりに効果はあるんだと思いますよ」

「昔みそ」というブランド性をより広めている

 その上での販促はどうしているか?

「昨年、ホームページをリニューアルしました。より見やすくなったと言われて注文も増えました。写真の画素数もグンと上げたんですよ。リニューアル記念に、今までやってなかったお試しセットを発売したら、完売しました。最近は販促イベントなども衛生面の問題などもあって、なかなか難しいのが現状です。またデパートなどでは既に入っているテナントとの兼ね合いもあって滅多にチャンスがない。うちのみそは冷蔵ショーケースのある所じゃないと販売できないですし、じゃ、販促をどうするか?となると、今後できることは販売数が伸びている海外向けや、みそを食のエキスポのようなところに出展してアピールすることか?と考えます」

 糀屋三郎右衛門のホームページを見ると、伝統の味を守り、手作りで少量生産する特別なみそだとよく分かる。これは食べてみたい、と思わせる「ブランディング」に成功している。

 

「流通の方はよくターゲット・プライスと言いますよね。うちのようなみそ屋は、そのターゲット・プライスを1ランク上げることを目指さないとダメだと思っています。ただ、ネット通販の割合が多いと最近は送料が上がっていますから、送料と商品の値段がトントンになってしまうこともあり、やみくもに値付けを上げればいいというわけにもいきません。ただ、うちが作る糀は日本一と自負しています。みその良し悪しは『糀』で決まりますから。そして、主に富山産の大豆を使い、昔ながらの大きな木樽で熟成させる毎回個性豊かな『昔みそ』を作っています。そういう点をもっとアピールしていきたいと思います」

 東京で作る「昔みそ」というブランド性をより広めること。「糀谷三郎右衛門」がみそを売るために大切にし、トライしているのは、そこだ。

お試しとブレンド提案でみそを売る「坂本商店」

 さて、もう1軒。東京都中野区・新井薬師で昭和30年代から50年以上に渡ってみそを売る「坂本商店」を訪ねた。昔ながらのみそ樽に入ったみそを量り売りするお店だ。

 

「大正11年に五反田で始めて、こちらは昭和30年代からです。最初は大田区の六郷に工場があって、いわゆる『かくはん』、みそを仕入れてきて混ぜ合わせることをしていました。昔はそういう商売があったんですよ。初代は私の祖父で、今の社長は私の叔父で3代目になります。親族みなでやっています」

 中野薬師あいロード店の店長・坂本研一さんにお話を伺ったが、実はここで私は20年以上みそを買ってきた。坂本さんはおなじみの顔だ。新井薬師の参道にある商店街の古くからの店が次々なくなっていく中で、ここは変わらずあり続けている。月に3度ある新井薬師の「8の日」の縁日で、各地からお客さん、特に中高齢者らが集まるのもここの強みになっているかもしれない。

 

「うちは通年で40種類ぐらいのみそを全国から取り寄せて販売しています。みそ蔵さんと違うのは、各地域のみそをお客さんに『ご出身はどちらですか? じゃ、これがいいかもしれません』とおススメできることですね。みそは土地によって違いますからね」

 同じ場所でみそを売り続けるために、新しいさまざまな工夫をしているのが坂本商店だ。例えば、店頭で『一口サイズのパック入りのみそ』を売り、さまざまな味をお試しできるようにしている。これは私自身何度も買って、いろいろな味を試してきた。

「小さなパック売りはずっと続けています。いきなり500グラム、1キロのみそを買うのは抵抗あるでしょうが、1回分お試しなら、買ってみようと思いますよね? あと、うちの強みはブレンドができることですね。合わせみそ。それを月替わりでもやっています。毎月、季節の具材に合せた味の合わせみそを出します。それの延長で、朝食に向いたブレンドみそ、夕食用という提案の仕方もします。もちろん、店頭でお客さまとの会話で『これはこっちと合わせるとおいしいよ』といったおススメもしますね」

 お試しと、ブレンドの提案。ここのみその売り方は、その2つだ。もちろん、ネットでの販売も行っていて、用途に合わせたみそ、期間限定のみそなど、思わずクリックしてしまいそうな見せ方をする。では、「みその盛り放題」のようなものはどうでしょうか?と聞いてみた。

「うちも盛り放題とかやろうか?と考えたことはあります。ただ衛生面とか持ち帰り方法とかパッケージとか考えると大変だなというのもあり、やらない結論になりました。でも、イベント的に1年に1回ぐらいそういうことをやるなら、いいんじゃないですかね? 小学生の子供たちが課外授業で来るんですけど、みそ汁を飲んだことがある人?と聞くと、半分ぐらいなんです。今はそんなですよ。だから地道にみそを知らせていく活動は大切だと思います」

みそは価値を下げる売り方をしちゃだめだ!

 みそを知ってもらうための普及活動の大切さは糀屋の辻田さんの話にも共通する。小学生の半数がみそ汁も飲まない現状は、みそ業界全体の問題でもあるのではないか?

「そうなんです。みそ業界はPRが下手だと日々感じています。手作りみそ教室などやると興味がある、やりたい人は大勢いるんですが、うちも営業があるんで、そうそう何度もやれない。最近は海外輸出が増えていて、フランスではシェフたちが料理やお菓子作りにもみそを使いますよね。ここでみそを買う人たちは味もそうですが『香りが違う』といいます。店に入ってきた子供たちが『ああ、いい匂い』とか言うとうれしくなります。みそは味だけじゃなく香りでも楽しみ、精神安定効果もあると言われています」

 みそはただの調味料にとどまらない。そこにある付加価値をもっと知ってもらうことで、みその売上げ増が望めるのではないか?

「お客さんはおいしさはもちろんですが、みそに健康にいいという側面も求めています。うちが求めるのは『みそが作る家族の団らん』です。家族が帰ってきて、一杯のおみそ汁を飲んで『おいしいね』と笑い合う、そんな昔ながらのみそを囲んだ団らんが生まれたら、まだまだみそ屋も捨てたもんじゃないな、と思えるんですね」

 たかがみそ、されどみそ。日本で数千年食べられ続け、今ではフランスのショコラティエもこぞって『みそチョコを』作る。みその現場でお話を伺い、みそにはいろいろな可能性があると思った。その郷土性を生かした「おみやげみそ」としてインバウンド向けにもっと発信していくとか、郷土みそを使ったさまざまなグルメを出品する「みそグルメ博覧会」はどうだろう? そこで郷土の日本酒とみそのマリアージュを提案するとか? さらに地域のSMやコンビニと連携して「郷土みそおにぎり」などを売り出すのもアリかもしれない。

 郷土色豊かな日本の伝統食みそに、大きな可能性を感じる。みその価値を下げるような「盛り放題」をするより、もっとみその素晴らしさを生かしてアピールした売り方をしていくべきだと思った。