まずは既存製品の提供から始める(写真は提供が決まっているアイテム)

「スウェーデン市場の拡大ということは直接の理由じゃないです」

 こう語ったのは、ファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長。

 2019年1月24日、同社の有明本部「UNIQLO CITY TOKYO」(東京都江東区有明1-6-7)で行われた記者会見、質疑応答で語られた言葉だ。

 この日、ユニクロはスウェーデンオリンピック委員会とパートナーシップ契約を締結したと発表した。

 契約期間は、2019年1月から4年間。2つのオリンピック・パラリンピック(2020年東京、2022年北京冬季)を含む試合や競技を対象に、スウェーデンの代表選手団と大会関係者にユニクロのアイテムを提供するというのが、その内容だ。

 提供される製品は「開会式で着用するもの」「閉会式で着用するもの」「トレーニングと競技に着用するもの」「余暇時間にアスリートが着用するもの」と「報道発表時にアスリートが着用するもの」。当初は既存製品を提供し、本年中より選手団専用のカラーリングとスタイリングの製品を製作。「できれば、今年の後半には何かしらのものができればと考えている」と桑原尚郎ファーストリテイリング グループ上席執行役員は話す。

1月24日、ユニクロとスウェーデンオリンピック委員会がパートナーシップ契約を締結した。柳井正 ファーストリテイリング会長兼社長(中央)、ピーター・レイネボ スウェーデン・オリンピック委員会CEO(右)、桑原尚郎 ファーストリテイリング上席執行役員

スウェーデン1号店が成功した2つの理由

 冒頭の発言は「この契約とスウェーデン市場拡大の関係」について記者がした質問に答えたものだが、現地を訪れ、スウェーデンを「少子高齢化が進む日本をはじめとする近代国家のあるべき姿」と感じ、「われわれとスウェーデンとの親和性」を覚えたという柳井会長。

 そのスウェーデンには2018年8月、ストックホルムにユニクロ1号店を開店している。

「計画通りにビジネスも非常にうまく行っている」という桑原氏は、会見でその成功要因を明かしたが、その1つが『スウェーデンのミュージシャンやダンサーなどにローカルアンバサダーとしてユニクロの服を着てもらい、広告活動に参加してもらったこと』『そのローカルアンバサダーから得た多くの示唆を生かしたこと』。

 そのアドバイスは「スウェーデンの人たちが持つ気持ち、価値観とユニクロの『ライフウエア』というコンセプトが持つ親和性のようなもので、スウェーデン、ストックホルムの生活者と非常に親密な関係が築けるのではないか」(桑原氏)と思ったという。

 もう1つは『Nikolina Johnston』(ニコリーナ・ジョンストン)さんというスウェーデン人の1号店店長の存在。

スウェーデン1号店成功にはニコリーナ・ジョンストンさんというスウェーデン人の存在があった

 ストックホルム近郊で生まれたニコリーナ・ジョンストンさんは、学生時代に欧米の国々を訪れ、その先々の都市でユニクロに出合い、「スウェーデンに出てストックホルムで広めるべきだと思うくらい親和性が高い」と感じたという。

 入社は2014年。フランスのユニクロで店長になるための研さんを積み、マリ店(代表的なコンセプトストア)、パリオペラ店(旗艦店)で店長を歴任、スウェーデンのプロジェクトに備えてきた。

 つまり、ストックホルムをよく知る社員を中心人物に据え、スウェーデンの生活者のアドバイスを得ながら、好調なスタートを切ったのが、1号店のクングストラッドゴーダン店(開店には1000人の行列ができたという)なのだ。

柳井会長「結果として拡大はいい」の意味は?

 会見では冒頭の答えに続いて、「スウェーデンの人たちが生活の一部としてスポーツを本当に楽しんでいらっしゃる。スポーツを楽しむことに対して、それにふさわしい服を提供したいというのが第一の動機であります」と語った柳井会長。そして、「その結果として市場が拡大していくのはいいことだと思っていますが、拡大ということよりもスウェーデンの人にもっといい服を提供したいという思いが強いです」とつなげた柳井会長。

 ここで、ローカルアンバサダーをスウェーデン代表選手団に置き換えてみると……。

 ストックホルム1号店の成功要因となったローカルアンバサダーの存在。それよりも広い層に影響力を持ち、強い浸透力を持つスウェーデンの代表選手団。その声や競技大会での好成績を通じて、ユニクロ製品の高い品質をスウェーデン国民に伝えられたら……。

 ユニクロのスウェーデン市場拡大の取り組みは一見遠回りのようだが、スウェーデン国民に強く働き掛ける効果を持つように思う。「オリンピックのたびにユニクロのスウェーデン市場拡大が大きく進む」。そんな長い作戦をユニクロは考えているのではないだろうか。