手前が牧野友衛さん(トリップアドバイザー株式会社代表取締役)、奥が新津研一さん(一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事 事務局長。USPジャパン代表取締役)。秋の平等院(京都府宇治市)にて。

 インバウンドビジネスに詳しい2人に質問をぶつける「キーマンに聞く『訪日ゲスト施策、今すべきこと』。後編は具体的なインバウンド施策について4つの質問をした。「日本の事業者に足りないこと」「小売り・飲食・サービスの店舗が取り組むべきこと」「情報の収集と発信の方法」「取り組みを参考にすべき国」は何か?

 質問⑦「インバウンドの取り組みで、今の日本の事業者に足りないことは?」

 牧野:インバウンドへの覚悟が一つ挙げられると思います。学生の頃から海外旅行してきましたが、アジアの島に行くと日本語で話し掛けてくる若者がいる。東ヨーロッパでも、まだ10代の若者がドイツ語と英語を話せるんだと言いながら、路上で何か物を売っている。すごいなと思いました。

 観光に経済を頼らざるを得ない国では、語学を習得しなければ生活が成り立たないから必死で習得するわけです。

 そうした経験から今の日本を見ると、首を傾げてしまうことが少なくありません。例えば、海外の観光地などインバウンドで成功している国は、トリップアドバイザーなどの口コミサイトを非常にうまく活用しており、いわばスタンダードになっています。しかしながら、日本では口コミサイトを活用していない施設や店がまだまだ多くあります。国がインバウンドを2020年までに4000万人に増やそうと決めた以上、覚悟を決めて取り組み始める時期にきていると感じています。

 新津:日本の事業者は、ツーリズム産業への理解度があまりにも低いと言わざるを得ません。国連がツーリズムは平和に寄与する産業だと明言しているのです。リテールでもITでもなく、ツーリズムです。それが貧困や地域問題を解決するというのです。それぐらい重要な産業だと、世界中の人が思っています。

 国も重要な戦略の一つだと言っています。ところが、先日開催された「ツーリズムEXPOジャパン2017」の会場を訪れた小売業関係者はほとんどいなかった。このツーリズムのグローバルなレセプションに小売業はほとんど招待されていませんでしたが、一方で世界では、ツーリズムリテーラーの団体があり、世界中の名だたるブランドが加盟し、ツーリズムに深く関与しています。

 日本でインバウンド向けの売上げが最も多いショッピングセンターは、イオンモールでも三越伊勢丹でもなく、成田空港です。そうした事実を、メーカーや小売りの人はご存じでしょうか。重要度の高いことなのに、理解度があまりに低く、そのギャップがすごく激しいですね。みんな、放っておいても来る、増えると思っているのです。 

 牧野:日本ではいまだに良いものさえ作れば人が来てくれると思うようなところがありますね。プロモーションやマーケティングの重要性を軽視している傾向があると思います。例えば、本にしても良い本を書けば売れるものだと思っている。でも、実際には多くの書店に配本し、棚に並べてちゃんと宣伝をしなければ、良い本も必ずしも売れません。

 新津:インバウンドで活況を呈している黒門市場にしても、頑張ったからお客さんが来てくれる。買ってくれた商品を箱に詰めて、それを店舗の従業員がバスまで持っていって、お見送りまでするから売上げが上がるのです。海外に行って、「日本に来てください」というから来てくれる。「トリップアドバイザーに口コミしてください」とお願いするから口コミが増えるわけです。何もやらないで口コミは増えません。

 牧野:日本人は良いものを作り、提供すれば評価してくれると思いがちなところがあるのではないでしょうか。そうした心情を必ずしも悪いものだと思っているわけではありませんが、インバウンドで国を活性化する、あるいは訪日外国人旅行者に4000万人来てもらうには、世界の旅行者の人たちに評価されなければいけないので、そのやり方を変えていく時期にきているということです。

 新津:市場を正しく理解した上で、うちはやらないと決めたのならいいのです。でも、ほとんどの小売業がまだ正しく理解する段階までいっていないと思います。

 牧野:インバウンド施策が国のトップダウンで、全員がまだ咀嚼し切れていないのかもしれません。自分たちがインバウンドに関して何をどこまでやればいいのか分からない。でも、訪日外国人の人たちは増えてきている。だから、とにかく目の前のことに対応するのが精一杯といった状態のように感じられます。いったん立ち止まってよく考えるということも必要なのかもしれません。