小売企業はPB開発に活用できる!

 このデザイン思考、小売業にはどのような活用法はあるのでしょうか。

 その最大の活用場面は商品開発でしょう。

 商品部でプライベートブランド(PB)商品を開発する場面を想像してみてください。

 PB開発上、留意すべき点は4つあります。①ナショナルブランド(NB)とPBの品揃えバランス、②PBのラインアップ(3層構造:プレミアム、スタンダード、ベーシック)、③業態特性(自社がどの業態に所属するのか?)、④SCM(川上:メーカー、川中:卸、川下:小売り)間の収益配分です。

 まず、従来の小売業の常識で考えると、①について日本ではPB比率は2割を超えることはないと思われがちです。しかし、それは従来のNBとPB比率の常識であり、②、③、④の組み合わせ次第ではPB比率は(財や関与度にもよりますが)50%を超えても不思議ではないのかもしれません。

 その良い事例がセブン-イレブンのPB『金の食パン』。これはセブンプレミアム ゴールドというプレミアムPBとして販売され、ヒット商品になったものです。従来のロジカル・シンキング的発想では、食パン市場は山崎パン、敷島パンなどの大手NBメーカーの独壇場で、消費者も高級な食パンのニーズはないと思いがちでした。

 しかし、セブン-イレブンはこれまでの常識を覆し、消費者の高品質志向の流れをうまく捉え、プレミアム食パン市場に勝算はあると踏んだのでしょう(定価販売をするコンビニの業態特性を押さえた上で進めた点もポイントです)。その結果、徹底的に品質やおいしさにこだわり、新たな高級食パン市場を自らの手で切り開いたわけですが、これは2013年4月のこと。現在の「高級食パンブーム」よりもかなり早いことが分かるでしょう。

 セブン-イレブンの商品部メンバーは得意とするチームMDの手法を活用し、メーカー、卸、自社、消費者パネラーをも巻き込んだ価値共創型思考と、デザイン思考を両立させ、この商品開発に臨んだと推察されます。まさに、デザイン思考を用いたイノベーションの好事例なのです。

社内に「H型人材」が必要になる

 また、デザイン思考を社内における組織と人の枠組みとして捉える際、デザイナー、エンジニア、ビジネスがそれぞれ1つの専門領域に留まらず、各々が重なり合う領域に自らの専門性(ポジショニング)をシフトしていかないといけないともいわれています。

 これは自身が2つの専門分野の橋渡し的存在にならないといけないということ。そのような人材を、デザイン思考では、「H型人材」と呼びます。H型人材とは自身の専門性を深めつつ、一方では他分野の専門家とうまく協調しながら、互いに持てる専門性をうまく融合させる力を持った人材といえるでしょう。このようなH型人材がデザイン思考を社内に浸透させるためには必要不可欠なのです。

これまでの常識を覆す発想ができる!

 最後に、小売業がデザイン思考を浸透させていく上で、重要な理論を紹介しておきましょう。

 それは「両利きの経営」です。先ほどのPBの事例にもあった通り、通常、商品開発を行う際は、購買実績データであるPOSなどの定量データに縛られがちです。これら定量データを使うなというのではありません。「定量データと定性データのバランスが重要」だといいたいのです。

 両利きの経営で大切な概念は「知の探索」と「知の深化」のバランスにあります。デザイン思考でも触れた通り、「発散」と「収束」は「知の探索」と「知の深化」に近い概念ですが、人間はこれまでにない新しい物やサービスを生み出そうとする際、どうしても自身が持つ特定の専門分野の知を深めたがります。そうすると、ある一定ラインでイノベーションが停滞してしまう「コンピテンシー・トラップ」に陥るのです。この打破には、知の範囲を広げるためにも自らが知の探索をしないといけないというわけです。

 このデザイン思考でいう「発散」を小売業に置き換えると、ネットとリアル店舗での品揃えしかり、PBとNBの適正バランスしかり、NB内での品揃えしかり、全ての面でこれまでの小売りの常識を覆すイノベーション発想のデザイン思考を取り入れることが重要だということ。

 皆さんもデザイン思考をダイナミックイノベーションを呼び込む戦略ツールとしてぜひ活用してください。