セブン-イレブンのPB「金の食パン」は価値共創型思考とデザイン思考を両立させて商品開発に臨んだ商品開発の好事例だ。

 第24回のテーマは「小売業にとってのデザイン思考」です。皆さん、「デザイン思考」という言葉を耳にしたことはありますか?

 “共創型戦略デザインファーム”BIOTOPE 佐宗邦威CEO氏の著書『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(2015)によると、デザイン思考はドイツのバウハウスがその起源だったそうです。

 デザイン思考というと、スタンフォード大学のd. schoolを思い浮かべたりしませんか? 日本でもIDEOというデザインコンサルティングファームが有名になったため、一緒にデザイン思考を普及させようとするd. schoolが発祥のように思うかもしれませんね。

デザイン思考は「循環型思考プロセス」

 佐宗氏は著書の中で「デザイン思考とは、人の生活に寄り添った商品やサービスを、ゼロベースで発想する思考法である。それは、人間中心デザインであり、アートとテクノロジーの融合であり、ユーザー中心のデザインである」と説明しています。

 従来、経営学やマーケティング研究で日常的に使われる思考法は論理的思考(=ロジカル・シンキング)で、左脳を中心に論理思考性が問われていました。これはどちらかといえば1から2、3、そしてnへと物事を改善していく漸進的なイノベーションに適している考え方。これに対して、デザイン思考(=デザイン・シンキング)は右脳を中心に考え、0から1を生み出す革新的なイノベーションに適していると言われています。

 ロジカル・シンキングとデザイン・シンキングでは、思考プロセスに違いがあります。デザイン・シンキングは大きくは①「リサーチ」、②「分析」、③「統合/課題の再定義」、④「プロトタイピング」の流れで構成されていますが、デザイン・シンキングは、この4つのプロセスを双方向に繰り返す「循環型思考プロセス」になっています。

 デザインとイノベーションを経営学の視点で研究されている一橋大学大学院 経営管理研究科教授の鷲田祐一氏はこう述べています。「国内の学術分野、特に、経営学やマーケティング分野において、デザインが経営学やマーケティングにおける重要な要素であると皆、認識しつつも、実際には、デザインという問題を中心課題として取り扱った国内のマーケティング研究(サービス研究、イノベーション研究、消費者行動研究等)や経営学の研究は、まだまだ少ない」

 デザイン・シンキングが、イノベーションを起こす際に重要であると分かっていても、実際はロジカル・シンキングに頼っているのが日本の現状。このギャップをどう埋めていくかが日本の産業がイノベーションを起こす際に、とても重要になってきます。

右脳と左脳をバランスよく使う

 では、デザイン思考を実務の世界にうまく取り入れるには、何が必要でしょうか?

 鷲田氏が主張している考え方に1つのヒントがあります。それは「創造性の発現」に着目すること。すなわち、デザインを商品・サービスの目に見える差別化要素として捉えるだけでは不十分で、その差別化要素が生み出される前提として、メーカーやデザイナーの創造性がどこにあるかを捉えることが重要になります。

 佐宗氏も実務家の観点から、デザイン思考を具現化する上で「ハイ・コンセプト」の概念をよく理解することが重要だと述べています。

 ハイ・コンセプトはダニエル・ピンク(2006)が主張した概念で、「感性、共感、デザイン、物語、遊び心、全体の調和、意義」の6つの要素から構成されています。この中でデザイン思考と特に関係があるのは「感性」と「全体の調和」です。すなわち、「物事をビジュアルで捉える感性を磨くこと」、そして、物事を考える際に「右脳と左脳をバランスよく使うこと」がデザイン思考では大切になるのです。

 また、デザイン思考を捉える上でのキーワードに「発散」と「収束」があります。あるコンセプトを考案する際、言葉だけではなく、できる限り写真などのビジュアル素材を使って、皆でアイデアを出し合い、前提条件や制約をあまり設けずに積極的に議論することが「発散」です。その上で、発散したアイデアをその目的に応じ、絞り込むことが「収束」になります。

 この発散と収束を繰り返しながら、コンセプトを具体的に詰めていくのですが、ある程度、コンセプトが固まれば、そのイメージを絵に描いたり、簡単な模型にしたりします。これをデザイン思考では「プロトタイピング」といいます。

 通常、商品やサービスを開発する際にはコンセプトがしっかり固まり、デザインや設計も終わった段階でプロトタイプ(試作)を作るので、ここに従来のロジカル・シンキング的発想とデザイン思考的発想でのモノづくりの違いがあるわけです。

 これは例えていえば、これはGoogleなど検索エンジンのソフトウェア バージョンアップの開発プロセスに近い発想とでもいえましょうか。デザイン思考ではまずは社内で議論し、作ってみる。それを消費者に試してもらい、不都合な点はその場でどんどん一緒になって修正を加えていく。このようなPDCAをデザイン思考は高速で回しているのです。通常、デザイナーはこのような思考法を用いて、これまで世の中になかった新しい商品やサービスを生み出し続けているのです。