「僕は経営者でもあるのでどうしても『欠品が多い店=機会損失が大きい』と感じてしまうのです」と伊本貴士氏。食べたかった新商品のポテトチップスが欠品していたという実体験を引き合いに出して語った。

流通アナリストの渡辺広明氏とAI・IoTコンサルタントの伊本貴士氏があらゆる角度から「ミライのコンビニ」について対談するこの連載。第4回は「AI活用はコンビニのどこから始めればよいか」。AIがもたらす「コンビニのミライ」が徐々に見えてきました。

渡辺:コンビニの3大業務といえばレジ接客、品出し、発注です。AIが優秀なアドバイザーだとするなら、僕はレジ接客に関わる「カウンター問題」を解決するために力を借りられたらなと期待しています。

伊本:「カウンター問題」とは具体的にどういうことですか?

渡辺:まずはコンビニの売上げの約25%強を占めているたばこですね。銘柄が増え過ぎた結果、お客さまが番号で注文するスタイルが浸透しましたが、実はカートンを頼まれたときの方が大変なのです。というのも、店舗では番号が付いた陳列棚の上や下にカートンの在庫を保管していますが、こちらまでは番号が付いていません。例えば、JTの主力ブランドである「メビウス」だけでも30種類あるというのに、番号が付いていないたばこの(カートンの)山の中からお目当てを探すのは至難の業です。

 もう1点はAmazonやメルカリなどの荷物受け取り。以前から宅配便のコンビニ受け取りはありましたが、利用者が増えている今、Amazonの似たような箱がいくつも並んだ中から瞬時にお客さまの商品を探すのは困難です。

伊本:つまり、店員さんの苦労の上に成り立っているサービスなのですね。おそらく企業側としてはそうした問題に気付いてはいるけど、システムを開発すると費用がかさむ。そして今すぐお店がパンクするわけでないし、現場の人の努力で何とかなっているなら今すぐやる必要はないという発想なのでしょう。

渡辺:コンビニはフランチャイズで成り立っているので、本部は最大限に手伝うけど最終的にはオーナーに頼りがちですからね……。

「仕入れの需要予測」に使うだけでは効果は限定的

伊本貴士 奈良県橿原市出身。3児の父。メディアスケッチ(株)代表取締役、サイバー大学客員講師。技術コンサルタントとして全国のさまざまな業界の企業に対して、技術戦略の立案や、研究開発などを行うサービスを提供。各企業や自治体などのアドバイザーや顧問なども多数行っており、経済産業省主幹の地方版IoT推進ラボメンターなども務める。全国でIoTやAI、ブロックチェーンなどの講演を行っており、日経ビジネススクール、日経技術者塾、日経エンジニアリングスクール講師なども務めている。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」やテレビ朝日「サンデーLive!!」などに出演。著書に「IoTの教科書(日経BP)」「IoTの問題集(日経BP)」など。 /渡辺広明 浜松市出身。2児の父。マーケティングアナリスト、日本唯一の流通アナリスト、コンビニ評論家、流通ジャーナリスト、約700品の商品開発に携わるマーケター、元コンビニバイヤー、元コンビニ店長、現コンビニアルバイター、「浜松市やらまいか大使」(観光大使)など、さまざまな顔を持つ。フジテレビ「ホンマでっか⁉TV」レギュラー評論家として活躍する他、スポーツ紙「東京スポーツ」に連載を持ち、ニュース・ワイドショー・新聞・週刊誌・ラジオなどのコメント・講演会・アドバイザリー・顧問業などでも幅広く活動中。趣味は「ドラゴンズ熱烈応援」「時折フルマラソン」「発展途上国の教育支援(ガーナ・ラオス)」。

伊本:ちょっとITの話を挟ませてもらうと、コンビニ業界にITエンジニアがいない、あるいは少な過ぎることが問題の遠因かなと思います。手を動かすところは外部に発注するにしても、システムの基本設計は内部の人がやらなければいけない。なぜならコンビニで働いていない人は業務のことを分かっていませんから。日本ではSIer(=システムインテグレーター)に任せている企業が多いのですが、SIerは業務のことを分かっていないから、その橋渡し役としてITコンサルタントまで必要になってしまう。元々、その企業に業務のことも、現場のことも、ある程度システムのことも分かる人材が育っていれば、全てSIerに丸投げしなくてもいいし、システムが完成して使い物にならないなんてことにもならないはずなのです。

渡辺:そうなのですね。伊本さんがコンビニでAIを活用するとしたらどこから始めますか?

伊本:まずAIを活用するなら仕入れでしょうね。今の人間の予測に基づく仕入れに比べれば、確実に在庫切れや過剰在庫をなくせると思います。ただし、AIを開発していく上で意識すべきなのはバリューチェーンの再定義です。例えば、製造業だと原材料を仕入れて、加工して、商品を出荷して、サポートするところまで物の流れのプロセスがあるわけですが、AIを使ったらどこがどう最適化されて、現場がどう変わるのかまでをイメージをしないと本当の意味での最適化は望めません。店舗だけでなく倉庫や工場まで含めて考え、全体の最適化を見据えた上で段階的にプロジェクトを進めることで、初めてAIの活用が意味を持ってきます。単純に「AIを使って需要予測しました。それに従って仕入れをします」では効果は限定的だと思います。

渡辺:なるほど。コンビニは売れている商品の分析は徹底的に行いますが、一方で廃棄や品切れがなぜ起きたのかを分析していけばマイナスを防げる方法があるかもしれないと。

伊本:その通りです。僕の個人的な話で恐縮ですが、コンビニでもスーパーマーケットでも一番イラッとするのが、僕が食べたかった新発売のポテトチップスがないという場面です(笑)。店員さんに聞いてみると「ここにあったんですけど、ない……。売り切れですね」と言われるのですが、僕は経営者でもあるのでどうしても「欠品が多い店=機会損失が大きい」と感じてしまうのです。確かにフードロスが減ることは良いことですが、売り切れて在庫破棄がないことがハッピーというのも経営者としてはあり得ない。いつ行っても売り切れの店ってありませんか?

渡辺:ないとは言えませんが、それは店の資質の問題だと思います(笑)。コンビニの現場では天気や気温、近くで運動会などのイベント事がないかなど考慮して発注をしているのですが、AIを活用する場合はどう整理して行うのでしょうか?

天気データだけでもAIの精度が高まるのではないか

伊本貴士氏

伊本:一般的にAIはいろいろなデータを投入するほど、予測精度が良くなります。意外に思われるかもしれませんが、僕は天気など簡単に取れるデータだけでもいろいろ集めるだけでAIの精度が良くなるのではないかと思っています。天気がおにぎりの販売数と何らかの関係性があるのであれば、天気予報によってAIの予測値が変わりますし、関係ないなら天気予報は予測値に影響しません。どのデータと関係があり、関係がないかも自動的に返されます。よって顧客の行動と関係性がありそうなデータが多い方がいいですね。

 さらに数値のデータで直接的に取れないと思われるデータを間接的に取得し数値に変えることが可能です。コンビニの外に付いている監視カメラで人の流れや車の通行量を例えば「少ない・普通・多い」といった3つの評価値に分けてそれをデータに教え込む。後は最近注目されているソーシャルデータです。TwitterやFacebookといったSNSに流れている文字を分析してどこでどれくらいのイベントが起こっているのかを把握するといったこともできます。

渡辺広明氏

渡辺:コンビニだと、セブン-イレブンは自動発注を導入していませんが、ローソンではお弁当やおにぎり、調理パンなどにセミオート発注を導入しています。とにかく欠品させないように店舗が求める以上に商品が入ってくるので、発注の合理化が進むのはありがたい話です。

伊本:従来のAIを使わない予測システムは、人間が決めた公式に従って計算していますから、こういう予測結果が出るだろうというのがきっちり決まっています。AIはやってみないと分からないところがありますが、きちっと学習できていれば学習するほど賢くなっていくのは確かです。

 だから、コンビニに限らず企業にはコストを掛け過ぎない前提で、スモールスタートでどんどんAIを入れるべきなのです。AIを育てるのには時間が掛かるので、いくらお金を掛けても開発してすぐに利用できるわけではありません。また、AIを使っていくことで社内のAIに対する理解も進み、その企業に特化したデータを学習させることで、AIが試行錯誤しながらどんどん企業のノウハウとして蓄積されていくのです。

渡辺:僕はAIに発注はできないと思っていましたが、伊本さんの話を聞いてイメージが変わりました。

【第5回 「AIでこう変えよう」日本のコンビニに続く】