「不良品がどこにあるかが把握できるから、瞬時に対応できる」という小売業界。このために使うRFIDタグのコスト、もっと別に使うべきところがあるのではと渡辺氏は言う。

流通アナリストの渡辺広明氏とAI・IoTコンサルタントの伊本貴士氏という異色の2人があらゆる角度から「ミライのコンビニ」について対談するこの連載。第3回は「日本企業が間違えやすいAI・IoT活用の進め方」がテーマです。

いきなりパーフェクトなものをリリースしようとする

渡辺広明 浜松市出身。2児の父。マーケティングアナリスト、日本唯一の流通アナリスト、コンビニ評論家、流通ジャーナリスト、約700品の商品開発に携わるマーケター、元コンビニバイヤー、元コンビニ店長、現コンビニアルバイター、「浜松市やらまいか大使」(観光大使)など、さまざまな顔を持つ。フジテレビ「ホンマでっか⁉TV」レギュラー評論家として活躍する他、スポーツ紙「東京スポーツ」に連載を持ち、ニュース・ワイドショー・新聞・週刊誌・ラジオなどのコメント・講演会・アドバイザリー・顧問業などでも幅広く活動中。趣味は「ドラゴンズ熱烈応援」「時折フルマラソン」「発展途上国の教育支援(ガーナ・ラオス)」。

渡辺:AIのような最新テクノロジーの導入で企業が気を付けるべきことは何なのでしょうか?

伊本:日本企業はシステム導入時にコストをかけたがる印象がありますね。IT屋が自分たちの利益のために提案するならまだしも、企業側が合理性や戦略もなく、直感的に機能を追加してしまうと、見積もりが予想以上に高額になります。開発するIT企業側も、発注側の要件が曖昧であるほど、いろいろとプロジェクト管理上の安全性を考えて見積もりを高めにつくります。その結果、見積書を見て「今年はやめておこう」となってしまう。

渡辺:ありますね。でも、それは新しいサービスを全てのお客さまが利用できることを前提にするからですよね?

伊本:その通りです。いきなり全ての人が使えるという発想でパーフェクトなものをリリースしようとする傾向があります。とりあえず特定層向けにスモールスタートで実験的にベータ版をリリースするアジャイル的な発想が欠けているわけです。

渡辺:例えば、決済でいえば、支払い方法が多様化していてもいいと思います。コンビニでも、現金で支払いたいおばあちゃんが利用者の10%くらい残るかもしれませんが、そこは残しておいて、いろんな仕組みが存在していい。

伊本:はい。ITリテラシーが高い人もいれば低い人もいるわけで、全体を低い人の目線に合わせるだけではいけません。最近ではSNSの影響もあり、イノベーターがいろいろ試して情報発信する時代です。最初は一部の人しか使わなくても、イノベーターのリテラシーが高い人が便利な決済方法を使い始めることで、そのうち社会全体に広まっていくものです。

 ところが、マイナス評価の文化で動く日本企業では、レジで画像認証システムを使うときでも「顔認証は双子もきちんと区別できるのだろうか?」となりがちです。もちろん、セキュリティや安全性には配慮が必要です。しかし、それ以外の部分はやる前から気にし過ぎることではないと思います。双子なんて全体の1%なのですから。特に最新テクノロジーは完璧ではありません。どうしても人間が補完しなければいけない部分はあり、そのために人間は必要です。

便利だと分かったらみんながそれに合わせていく

伊本貴士 奈良県橿原市出身。3児の父。メディアスケッチ(株)代表取締役、サイバー大学客員講師。技術コンサルタントとして全国のさまざまな業界の企業に対して、技術戦略の立案や、研究開発などを行うサービスを提供。各企業や自治体などのアドバイザーや顧問なども多数行っており、経済産業省主幹の地方版IoT推進ラボメンターなども務める。全国でIoTやAI、ブロックチェーンなどの講演を行っており、日経ビジネススクール、日経技術者塾、日経エンジニアリングスクール講師なども務めている。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」やテレビ朝日「サンデーLive!!」などに出演。著書に「IoTの教科書(日経BP)」「IoTの問題集(日経BP)」など。

渡辺:なるほど。伊本さんの話を聞いていて僕はスマホを思い出しました。スマートフォンが出てきたとき、「ガラケーで十分便利だからスマホなんて必要ないよね」と言う中高年が結構いましたが、周囲がスマホを使い始めたら徐々にスマホに乗り換えたのを見ると、便利さが圧倒したんですよ。もちろん、一部ではいまだに「ガラケーじゃないと嫌だ」という人もいますが、企業の進化をそこに合わせる必要はありません。

伊本:ちょっと話がそれるかもしれませんが、僕は昔、アジアの中でも貧しいとされるバングラデシュに行ったことがあるんですよ。

渡辺:中国に次ぐ世界第2位のアパレル輸出国。狭い国土で、かつ人口増が続くことで賃金コストが上がらないといわれている国ですね。

伊本:はい。スラム街みたいなところがあったんですけど、どこに行ってもサムスンのスマホを売っていたのです。日本みたいに立派なケータイショップがあるわけではなく、路上にポンポンと並べてそれが売れていく。結局、貧しい国の人でもスマホを使いたがるほどだし、アフリカのジャングル地域に住む人たちですらスマホの普及率は右肩上がりといわれている。便利だと分かったらみんながそれに合わせて底上げされていくので、テクノロジーの採用はリテラシーの低い層に目線を合わせなくてもいいのです。戦略上、リテラシーの低い層にも便利さを提供しなければならない場合はそのための専用商品やサービスを提供すればいい。高齢者や子供向けのケータイがそれにあたります。

RFIDタグは誰がつけ、コスト負担をするのだろう?

NECのAI・IoTなどの先進技術を活用したセブン-イレブン三田国際ビル20F店

渡辺:はい。昨年は、JR東日本が赤羽駅でAIを用いた無人決済システムの実験店舗を始めた他、セブン-イレブンがNECと共同で顔認証でお客を把握するコンビニの試験運用などコンパクトな取り組みを始めつつあります。

伊本:大企業がやるチャレンジとしてはスピード感があってチャレンジングな挑戦として非常に高い評価をしています。最近、経営者の意識改革が進み、大企業でもどんどん新しいチャレンジをしていますが、JR東日本にはその代表的企業として頑張ってほしいと思っています。時代の流れが速い今、大きなものを設計してテストして完成させて……というウォーターフォール型ではなく、開発したらテストをして段々と改善していくPDCAを回す方がはるかに効率的ということは強調しておきたいと思います。

渡辺:ところで、経済産業省とコンビニ5社(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、ニューデイズ)が進めているRFIDタグについて伊本さんはどう思いますか? 僕はユニクロのようなSPA(=商品企画から生産、販売までを一貫して行う小売りのビジネスモデル)だったら有効活用できるかもしれないと思いますが、コンビニのように多種多様なメーカーの商品が入ってくるお店で実用化させるのは非常に難しいと考えています。「RFIDタグ1枚当たりのコストが1円まで下がれば……」ともいわれますが、一体誰がタグを付けて、誰がその負担をするのでしょうか。

伊本:僕もRFIDにはコストと手間の問題があるため、いまひとつ新しい価値を感じていません。無人レジの決済の確実性を優先させたときに、カメラによる画像認識よりもRFIDになっているだけ、というのが現状だと思います。重要なのはRFIDのどこに価値を見いだそうとしているかでしょう。

メリットが分からずに進むITプロジェクト、あるんです

渡辺:RFIDタグはレジレス決済に使えるだけでなく、商品一つ一つがどこにあるか、例えば倉庫、物流、店舗のとこにあるかが分かるとされていますが、その情報を知りたいと思うユーザーはほぼいない、あるいはいてもわずかだと思ってしまいます。

伊本:在庫管理が目的だとしたら、個別の商品全てにタグを付ける必要はなく、箱かパレット単位でRFIDタグを付ければいいのでは? 例えば、「この段ボールにはこの商品とこの商品が入ってします」という情報を書き込んだRFIDタグを段ボールやパレットごとに付けてデータ管理をすれば、付けるタグの数は劇的に減るわけですよ。

渡辺:そうすると、小売業界は「不良品が発生した場合にそれがどこにあるかが把握できるから、瞬時に対応できる」とか言うんですけど、果たしてそこにコストを使う必要があるのかと僕は思います。そのためのコストを、商品の魅力を追求することに使った方がユーザーにメリットがあると思いませんか?

伊本:う~ん、なかなか難しい話ですね。ただ僕が感じたのは、ITプロジェクトではよくあるパターンなんですけど、システムを作ることが目的化してしまうこと、意外と多いのです。例えばですが、最初はRFIDタグ導入の設定目標が「不良品対応のための在庫管理が正確にできること」とされていたのに、いつの間にか「一つ一つの商品が今どこにあるのかを把握すること」が目的化してしまっている。意外に思われるかもしれませんが、実は何のメリットがあるのか分からずに進んでいくITプロジェクトっていっぱいあるんです。

 簡単な話でいうと、メールサーバーを新しいものに置き換えます。でもなぜ置き換えなければならなかったのかをきちんと理解していないので、置き換わって性能は良くなかったけど、そもそもの根本的な問題が解決されていない……。このようなケースは珍しくありません(笑)

渡辺:そこまでいくと、日本企業の組織の問題になっちゃいますよね?

伊本:はい。ITプロジェクトは組織論以外の何物でもありませんから。

AIに高度なコミュニケーションが必要な仕事はできない

 

渡辺:いっそのことITプロジェクトにAIを入れることはできないのでしょうか(笑)

伊本:ITプロジェクトは本来、発注側の担当者と開発側のプロジェクトマネージャーがきっちりと目標を決めて、それを堅持した上でブレークダウンしていく方法を採用していれば問題は起こりません。

 AIは基本的にはデータ分析ツールでしかなく、高度なコミュニケーションが必要な仕事はできないと考えてもらった方がいいですね。一部ではこれからAIが人間の仕事を奪うと主張する人もいますが、僕の認識は違います。AIはある視点で見た場合における分析に基づく優秀なアドバイザーとして人間が活用すべきツールであり、最終的に網羅的な視点で判断するのはわれわれ人間なのです。

【第4回 AI活用「コンビニのどこから始める?」に続く】