「どの電子マネーも現在の顧客を囲い込むことにこだわり過ぎているから、これ以上は普及しないと思っている」(渡辺)

流通アナリストとして活躍する渡辺広明氏とAI・IoTコンサルタントの伊本貴士氏という異色の2人が「ミライのコンビニ」をテーマにあらゆる角度から徹底的に対談した。第1回は伊本氏の「コンビニの価値とは何なのか?」という疑問からスタートする。

スタートを間違えるとユーザーが支持しないものになる

伊本貴士 奈良県橿原市出身。3児の父。メディアスケッチ(株)代表取締役、サイバー大学客員講師。技術コンサルタントとして全国のさまざまな業界の企業に対して、技術戦略の立案や、研究開発などを行うサービスを提供。各企業や自治体などのアドバイザーや顧問なども多数行っており、経済産業省主幹の地方版IoT推進ラボメンターなども務める。全国でIoTやAI、ブロックチェーンなどの講演を行っており、日経ビジネススクール、日経技術者塾、日経エンジニアリングスクール講師なども務めている。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」やテレビ朝日「サンデーLive!!」などに出演。著書に「IoTの教科書(日経BP)」「IoTの問題集(日経BP)」など。

伊本:コンビニの未来を語るとなると、無人レジやRFIDタグなど技術的な話になりがちなのですが、僕は「コンビニの価値とは何なのか?」という問いからお尋ねしたいと思っています。というのも、どんな優れた技術であれ、スタートが間違っているとユーザーに支持されないものが出来上がってしまうリスクが大きいからです。

渡辺:はい。例えば、「人手不足になるから、レジの無人化を進めないといけない」という発想なんか、われわれが陥りやすい典型ですよね?

伊本:その通りです。コンビニが今、直面している問題を解決することももちろん大切ですが、その一歩先、二歩先の未来を考えるためには本質を確認しておきたい。コンビニの存在意義とは何だと思いますか?

渡辺:コンビニの存在意義はやはり24時間営業で便利なお店であることだと思います。いわゆるカスタマーファーストのお店ですね。さまざまなサービスを導入することで成長を続けてきた結果、小売業として約10兆円の売上げに加え、ネット通販や公共料金の代金を支払う「収納代行」が約11兆円に拡大しています。ただし収納代行は単価が高いので、実態としては小売業がメインと捉えるべきです。

伊本:なるほど。近くにある利便性もそうですが、僕自身はスーパーマーケットでは売ってないサービスや商品があるからコンビニを利用している気がします。

渡辺:そうですね。良いか悪いかは後で論じるとして、コンビニでは近年、プライベートブランド(PB)の比率が高まっています。コンビニのような巨大チェーンには仕入れ力もあるから当然、原材料もいい条件で入手できますし、メーカーとの交渉も優位に進む。その結果、コンビニ各社の商品開発力は他業種に比べて群を抜いています。全国に約5万8000店というコンビニの店舗数は消費者にもメーカーにも大きな影響力を持っているんですよ。

伊本:はい。僕も世の中を便利にするテクノロジーの入り口となる場所はコンビニではないかと思っています。

渡辺:例えば、最近だと「電子決済はどこが勝つのか?」という質問をあちこちから受けるんですが、僕は「ユーザーが最も楽をできるもので、かつ多くの人が利用するもの」と答えています。各電子マネーは利便性を巡って開発競争をしていますが、最終的には多くの人が利用するということが物を言う。

電子マネーも顧客を囲い込んだ時点で進化が止まる

渡辺広明 浜松市出身。2児の父。マーケティングアナリスト、日本唯一の流通アナリスト、コンビニ評論家、流通ジャーナリスト、約700品の商品開発に携わるマーケター、元コンビニバイヤー、元コンビニ店長、現コンビニアルバイター、「浜松市やらまいか大使」(観光大使)など、さまざまな顔を持つ。フジテレビ「ホンマでっか⁉TV」レギュラー評論家として活躍する他、スポーツ紙「東京スポーツ」に連載を持ち、ニュース・ワイドショー・新聞・週刊誌・ラジオなどのコメント・講演会・アドバイザリー・顧問業などでも幅広く活動中。趣味は「ドラゴンズ熱烈応援」「時折フルマラソン」「発展途上国の教育支援(ガーナ・ラオス)」。

伊本:セブン-イレブンは電子マネーのnanacoカードを結構普及させていますが、ファミマやローソンは電子決済の自社カードを普及させようとしていません。この現状をどう思いますか?

渡辺:僕は現状の枠組みの中では最終的にnanaco、WAONは成功しないし、交通系ICカードのSuicaもPASMOもこれ以上は普及しないと思っています。なぜなら、どの電子マネーも現在の顧客を囲い込むことにこだわり過ぎているから。逆に言えば、nanacoがファミマやローソンで使えるようになったら勝算が出てくるのではないかと思っていました。ただ、ファミリーマートも12月27日に、2019年7月をめどに独自の電子マネー「ファミペイ」を展開することを発表したばかりですで、その動向にも注視しています。どの電子マネーにしても顧客を囲い込んだ時点で進化が止まってしまうのは日本のサービスの問題点だと思いませんか?

伊本:そこは渡辺さんと同意見です。セブンだけでなくその辺にあるお店、例えば、街のクリーニング屋さんがnanacoを使って決済する仕組みを無料で簡単に導入できるようにもなってないし、システム提供側としては、おそらく「なぜ、セブン&アイ・ホールディングスと関係のないクリーニング屋にわれわれのシステムを無料で使わせなければいけないんだ!」という話になる。仮に一歩進んで、システムを使わせてもらえるようになったとしても今度はクリーニング屋さんが機器の設置などハード面で投資しなければいけないとまたハードルが残ります。

渡辺:そうですね。人口が減少し市場がシュリンクする中ではガラパゴスになるのではなく、もっと大きくユーザーを取り込むことが必要になると思います。とはいえ、どこがその役割を担えばいいと思いますか?

伊本:電子マネーの決済については一時期、携帯キャリアが担うのが一番いいとされていたのですが、ユーザーフレンドリーではないため最終的には頓挫してしまいました。僕が現在、nanacoを使っていて不満な点は入金チャージしなければならないことですね。クレジットカードからオートチャージできるともありますが、オートチャージ可能なクレジットはセブンカードのみ。結局、レジで「チャージしてください」と頼んで入金することがわずらわしい。

渡辺:JCBなどクレジットカード会社が関わると、一般的に2~5%の決済手数料を抜かれてしまうのが、小売業にとっては痛いところ。その意味ではポストペイ型よりも、大手銀行が作ろうとしているデビットカードのような仕組みがいいと思います。大手銀行と郵便局を含めるとほとんどの日本人が口座を持っている点も魅力にうつります。

伊本:それくらい利便性を追求しないといけないことは確かです。残念なことに日本企業は自分たちの論理でしか発想できていませんが、未来は“黒船”がやってくるかもしれません。

Amazonが大きな視点で投資できるのはなぜか?

渡辺:Amazonやアリババ(阿里巴巴)ですね。ECは既にAmazonにやられているけど、小売業もやられる危険がある。

「日本企業は短期間の足し算や引き算の話ばかりをしていて、イノベーションを起こす仕組みを提案できなくなっている」(伊本)との指摘も飛び出した。

伊本:その通りです。カード会社や電子決済はシステム管理に膨大なコストがかかるから手数料を必要としていますが、ブロックチェーンのような技術がシステム管理の在り方を変えるかもしれません。

渡辺:世間をにぎわせたビットコインなど仮想通貨の基幹技術として発明されたものですね?

伊本:はい。仮想通貨のイメージが強過ぎるのですが、ブロックチェーンは分散台帳を実現する技術なのでさまざまな応用が可能なのです。実際に仮想通貨の取引所というシステムが加わったことで、世界中の膨大な数の仮想通貨取引を行うシステムを運用できている実績があります。ただ、ブロックチェーンは大規模なデータ分散システムを構築可能ですが、データを登録するのに時間を要するという欠点があります。ところが、プライベートブロックチェーンという、特定企業が専用のチェーンネットワークを管理する仕組みと、誰でも自由に参加可能なパブリックチェーンが連携すれば、高速に多くの決済処理を行うことができます。例えば、アマゾンが「Amazonブロックチェーン」を開発したとしたら、基本的には難しい審査はなく、簡単な申請させすればどんな企業でも利用できるといった方向に進めるでしょう。実際にAmazonは小売りで既にマーケットプレイスという誰でも簡単に出店できる仕組みを作っています。中小企業もコスト負担がなく参加できて、キャッシャレス決済もできて、利用者の数が増えるとなれば最終的にはAmazonのファンが増え、売上げも上がるのでOKという発想。こうして、手数料に頼らない決済システムができた結果、手数料が限りなくゼロに近づいていったときに、日本の中小企業が一気にそちらに流れる可能性が出てきます。

渡辺:なるほど。Amazonは世界を相手にしているから大きい視点で投資ができていますが、日本企業は縮小する市場の中で先が見えないと視野が狭くなっているということですね。日本企業がM&Aで海外企業を買収するニュースが増えていますが、全くウカウカしていられない。

伊本:投資するときの判断も違いますよ。1年間の売上げとか利益を見ても将来的にその会社が伸びるかどうか分からないので、シリコンバレーの投資家の中には決算書をあまり見ない人もいるほど。では、どこを重視するのかというと、その企業がどれだけ将来を見据えて投資して技術や人材という数字では見えない資産を持っているかどうかという点です。それに比べると、日本企業は投資する場面でも「3年間で黒字化できる」と短期間における足し算や引き算の話ばかりしていて、チャレンジングで破壊的なイノベーションを起こす仕組みを提案することができなくなっています。

渡辺:ゲームチェンジャーになっていないんですよね。ただプライベートブロックチェーンの話は非常に面白いがユーザーには見えないものであって、それをどう使うかはやはり便利さをスタートに考えてみましょう。

伊本:はい。そうしないと技術に溺れてしまいますからね(笑)。

【第2回 考えた「コンビニの価値の引き出し方に続く】