©2018 Twentieth Century Fox

 最近、会う人ごとに「クイーンの映画観た?」と尋ねることにしている。私の周りの女性たちは、ほぼ100%観ている。「それ何?」と聞かれることが一度もないということは驚異的なことだ。そして、その後の話題はSNSになり、何度も観た人がいるという話や、再度観に行きたいという人の話に広がっていく。まさにSNSが拡散するウエーブなのである。

興行収入65億円、観客動員数470万人を突破!

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』は2018年11月9日に公開して以来、日を追って上映館が増え、興行収入も着実に伸び続けている。一般的には、公開した週に一番たくさん人が入り、徐々に減っていくというパターンをとるものだが、2週目、3週目と増え続け、12月も終わろうという今、上映スクリーン数は最初578だったのが12月25日時点で659スクリーン(配給会社20世紀フォックス映画調べ)という状況だ。

 現在までの日本での興行収入は約65億円。観客動員数は約470万人を突破している。サウンドトラックも12月17日正午の時点で約29万枚という驚くべき数字だ。ヒットは日本だけではない。『ボヘミアン・ラプソディ』という曲のYouTubeでの再生回数は全世界で16億回を超え(ユニバーサル・ミュージック調べ)、20世紀における最もストリーミングされた曲となった。

一度観ても「音響がいい」「応援できる」ところに

 

 この映画、一度観た観客が、より音響がいいところへ、そして歌ったり足踏みしたり手をたたいたりできる応援上映へと、何度も足を運ぶところも特徴の1つだ。この原稿を書きながら予告編の映像を観たら、私自身もまた行きたくなってしまった。ほとんど、クイーンというバンドを知らないのにである。

 物語は、ロックバンド「クイーン」の話である。1970年のロンドン。24歳のフレディ・マーキュリー(ラミ・マレック)は、厳格な家に暮らす劣等感を持った普通の青年だ。彼は、ヴォーカルが抜けたバンドに自分を売り込み、ロックバンド「クイーン」を結成する。彼らは数々の名曲を生み出し、人気バンドとしてスターダムに駆け上っていく。メンバーは理解し合い「家族」として絆を深めていたのだが、フレディはソロ活動を始めるようになる。新しい仲間に裏切られ、生活が荒れていく中、元恋人の勧めでバンドを再結成することになった。そして20世紀最大のチャリティイベント「ライヴ・エイド」で復活を果たすのだった。

クイーンのパワーが、映画館全体に広がる

 フレディは、4オクターブを超える声域で、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」「ウィ・アー・ザ・チャンピオン」「ボヘミアン・ラプソディ」などを歌い上げる。的確に音を捉え、美しく優しく繊細に、時に力強く、そして艶やかに、観客のハートをがっちりとつかむ。歌の素晴らしさだけでなく、フレディにはエンターテイナーとして類まれな才能がある。ピチピチのタイツや、羽のようなブラウス、上半身裸で白のショートパンツといった独特のファッションでエッジを効かせたカリスマ性豊かなスターだった。強烈な個性を放っていたが、残念なことに45歳でエイズで亡くなってしまう。「俺が何者かは自分で決める」といった数々の名言を残して散っていった。

 クイーンは、観客を楽しませることに徹し、ステージと客席が一体となることを目指した。「ウィ・ウィル・ロック・ユー」では、観客に曲に参加してもらうために、足で2拍子踏み、3拍子目を手拍子にして大勢のファンと1つになる。レディー・ガガが憧れて芸名のモチーフにした『レディオ・ガガ』、その他、聴いたことがある曲がたくさん登場する。4人のコーラス、ブライアンのギター、4人が全員曲を書き、それぞれがヒット曲を生み出している。それらクイーンのパワーが、映画館全体に広がる。

音楽総指揮はブライアン・メイとロジャー・テイラー

 

 1年かけてフレディになりきるために準備をしたラミ・マレックは、「振付師をつけないで動きの意味を理解するようにした」と語る。そしてムーブメントコーチにフレディの癖を再現してもらい、目の動き、振り向き方、マイクのつかみ方まで、自然にできるように習得していった。

 フレディは同時代の人だから、本人を観たことがある人、知っている人が今まだ大勢いるわけで、その人たちから見て違和感のないように演じることは、とても重要なことである。いったん「違う」と思わせてしまったら、そこから観客の心は離れて現実に戻ってしまうからだ。とにかく似るように必死の努力をしたラミ・マレックの執念もこの作品のヒットの由縁であろう。

 この作品ではクイーンの現在のメンバー、ブライアン・メイとロジャー・テイラーが音楽総指揮を務め、32曲もの名作が本物のフレディの声でよみがえる。

歌詞を理解し、自分との共通点を見つけて……

 驚異のヒットは、クイーンの全盛期を共に生きてきた世代のコアなクイーンファンを含め、ドラマやCMで聴いたことがある若者たちが観て家族に勧めたり、あるいは友人にこの映画の良さを広めることによって爆発的に増えていった。それは口コミを含め、SNSという手段を用い幅広い世代のミーハー心を捉え、「私も行かなくちゃ」状態を引き起こし、行ってみたら「この映画、イイ」とハートをつかんだということである。

 観た人は、この作品で改めて(あるいは初めて)フレディの生きざまを知り、歌声を聴き、歌詞を日本語で読んで意味を理解することで自分との共通点を見つけ出し、共感の輪が広がっていった。

劇場を出てきた人の顔は涙で濡れている

 

 映画全体を流れるリズム感、天使のような美しい声のハーモニー、訴え掛ける力、強い歌詞、そして社会におもねらず既存のものに革命を起こす力、全てが一人一人の心に響き何度も劇場に足を運ばせる。

「クイーンはあまり知らないからな」と招待されていた試写に行かなかった私も、SNSの興奮状態を見て遅ればせながら足を運んでみることにした1人だ。聴いてみたらたくさん知っている曲があった。それがどれも実にいいのだ。『ボヘミアン・ラプソディ』は少年が殺人を犯してしまう話だと初めて知り、最初の「ママ」という単語を聴くだけで胸を突かれる。劇場を出てきた人の顔は涙で濡れている。

クイーンを知らない人にもお勧めです!

 クイーンというバンドを知っている人も知らない人も、音響が良いところでクイーンの音楽に包まれたい、応援上映で一緒に足を踏み鳴らし手をたたき歌いたいと思わせるこの作品。

 思いもよらない大ヒットを生む秘密が、ここには隠されている。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』2018年11月9日(金)全国ロードショー