「人時生産性上昇のための現場作業の合理化」ができないと、5年後、店舗がなくなってしまう。吉田繁治先生はこう指摘します。それくらい切迫した経営問題を抱えている日本の小売り・サービス業界にとって来年は大変厳しいものになる。なぜなら、30年続けてきたパートへの置き換えによる「賃金未払いのつけ」が、2019年から一挙に現れるからです。

もうパート増での「見掛け上の生産性向上」はできない!

 編集部:前回は人員配置計画表の作り方を説明いただきました。

「小売業は労働時間当たりの売上生産性(人時売上生産性)を年率で最低でも5%は上げねばならない。これが同一労働・同一賃金の時代になって、経営が持続できる条件になっていく。そのためには売上げに対する人員数(パートは8時間換算で1人)を年率で5%は減らす作業合理化を図らねばならない。売上げが前年比で同じなら、人員数は5%減にしなければならない」とお教えいただきました。

 小売業の全体売上げの枠は「所得の増減×商圏人口の増減」で決まります。

 2010年代からは東京と周辺県を除く地域商圏では人口減少の時代に入っています。世帯所得の増加と物価上昇もないので、小売業の既存店の平均的な前年比は若干のマイナスを記録しています。衣食住の業界の平均的な店舗では、次年度人員数は5%以上減さねばならないことになりますね。

 吉田:小売業がパートを増やしていたのは、1980年代から2010年代までの30年間です。

 正社員を、パートに置き換えると1時間当たりの賞与を含む賃金は、新入社員(初任給の年収が約300万円:時給換算1500円)の約1/2でした。新入社員から5年くらいは、現場でパートと同じ仕事に従事することが多いでしょう。年収が500万円の30代社員(時給換算2500円)に比べると、パートの時給はほぼ1/3でした。

 こうした労働の内容ではなく、雇用の身分を原因とする賃金格差があったため、店舗の正社員1人を、パート2人に置き換えると、売上対比の人件費は1/2から1/3に下がったのです。

 店舗の商品処理の人時売上生産性は上がっておらず、むしろ下がっていても、パートの構成比を増やすことにより、賃金に対する生産性が上がったように見えていました。

 このため、本当の人時生産性は顧慮せず、「売場の維持に必要だから」という理由で、世帯所得と消費需要が増えていた1970年以来の人海戦術の人員配置が行われてきました。

 1990年代以降の約30年間、パート構成比の上昇が、既存店売上高が増えず、むしろ減る中で、わが国の小売業が経営を継続できた条件になっていました。物価上昇と所得の増加もないため、小売業全体の既存店売上げが増えずに、減り続けているのは世界では日本の小売業だけです。

 パートの労働時間の構成比は本社、物流、店舗を含んで既に80%になっています。店舗段階では90%程度が多いでしょう。年商が10億から13億円の中型店で正社員3人から4人、4時間換算のパートの人数は約60人です(労働時間数では30人分)。現在の平均的なパート構成比は今後、パートの構成比を増やすことにより、会計的な見掛け上の生産性を上げることもできないということを示しています

 パート雇用が製造業や金融、IT産業より特に多い小売業・サービス業の生産性問題が、「同一労働・同一人賃金」の法制化ともに露呈したのが2017年でしょう(『働き方改革法』)。

 小売業やサービス業でパート化が進んだ理由は、顧客が来る現場の作業が単純労働のカタマリだったからです。

 小売り・サービス業は経営的には消費需要の増加を前提にして、パートの大量投入という「人海戦術」をとってきたのです。これがパート構成比80%の理由です。

 ただし、法的な同一労働・同一賃金には、前回、指摘した不適用の条件が付けられています。そのまま適用すると、経常利益が売上比で2%未満の小売業・サービス業が赤字に転落し、経営の危機に陥るからです。

 売上対比の利益率が0~2%の小売業は全体の約6割以上あるでしょう。赤字の企業が約3割なので、利益が出ている会社は7割、そのうちの約6割が赤字になるということです。

 今のままで「同一労働・同一賃金」になると、黒字は10社のうち1社に減ります。こうした客観的な数字で見ると、大変な事態でしょう?

 小売業の店舗数は2016年が最新の政府統計ですが、参考のために示すと102.4万店になっています。小売業で働いている従業員は768万人と多いので、本部・物流を含む1人当たり売上げは1560万円と、売上生産性はとても低いのです。

 全店合計の売場面積は1億3400万㎡で、売場1㎡当たりでは総平均で100万円(1坪では330万円)の売上げになります(商業統計調査:2018年に公表)。

 わが国は店舗過剰といわれますが、わが国の売場面積当たりの売上げは、実は米国の1.5倍くらいと多いつまり、商圏売上げに対しては舗過剰ではないのです。米国小売業は売場面積当たりの売上げは低いのですが、1人当たり売上げでは日本の約2倍と大きく、人時の売上生産性は2倍あります。

 これは同じ売上げなら、米国の2倍の人員がいるのが日本の店舗ということ。米国では売場作業の合理化が、わが国の2倍果たされているわけで、売上生産性2倍といっても「十分に可能だ」ということは、米国を見れば分かるでしょう。

 経営とは「作業の合理化によって、人的生産性を上げることだといえるくらい肝心なものです。しかし、小売り・サービス業では「人時生産性を上げる」ことがなく経営が行われてきています。