香港では日本のものでないものを探す作業の方が難しいほど、香港人に生活には“日本”が浸透している。今では全てが撤退したが、大丸、そごうなど10を超える日系デパートが進出していた他(香港には現在でもそごうは現存するが、資本は地元企業に売却)、スーパーマーケット(SM)でもAEON、香港在住日本人が中心となって起業したシティスーパーという高級路線のものまであり、歴史が長い。その中で「一田百貨(YATA Department Store)」は香港企業が運営する「デパート+SM」という珍しい店舗として成功を収めている。12月2日に沙田(Shatin)という地区でこれまであった旗艦店を全面大改修しグランドオープンさせたが、そこで同社の黄思麗(Susanna Wong)最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。

一田はYATAと読み、「ヤッター」が由来になった

 一田の旗艦店は、香港北東部の沙田(Shatin)という新興住宅地にある。この地区は人口が増え続けていた香港の住宅問題解消のため1970年代から開発が始まったエリアで、香港の人口約740万人のうち約66万人が住んでいる(静岡市民が約70万人なので新興住宅地とはいえ、大きな商圏であることが分かるだろう)。

 一田が店を構える新城市広場(New Town Plaza)は1980年代にできた売場面積200万平方フィート(18万5000平方メートル)という巨大ショッピングモールで最初はヤオハンなどが入居していた。モールの拡張、テナントミックスの変更、内部改修の頻繁に行うなど、東京ディズニーランドのように絶え間なく何かをすることで、お客を飽きさせず、オープンから30年以上経過した現在も抜群の集客力を誇る。

 1990年、ヤオハンとは別に西友(香港では「西田(SEIYU)と表記)が進出。だが、2005年に一田の親会社でこの新城市広場の運営も行う香港最大手のデベロッパーの1つ、新鴻基地産(Sun Hung Kai Properties)が香港の西友を買収、2008年までは西田として運営されていた。しかし、2008年に再ブランド化を図るため、一田に社名を変更し現在に至る(社名の由来は「ヤッター」の音にかけた)。

全面大改修で香港では珍しいスポーツにも注力

右がビューティーゾーン、左がスポーツゾーン

 沙田の旗艦店は1億8000万ドル(約25億4000万円)を投じ、大きさが9万4939フィート(約8820平方メートル)で、うち4万3606平方フィート(4000平方メートル)がSM、残りが百貨店という構成だ。店には「#Beauty+」「#Fashion+」「#Sport+」「#Food+」という4つのゾーンを作ったが、この「+」は新しい買物体験と新時代の消費スタイルを届けることを意味する。IT時代を反映して、セルフレジの導入といったデジタル化、「Yata-Funs」という独自のアプリを製作するなど、お客の囲い込み対策もしっかり行う。

陳列されている化粧品は巨大ディスプレーを操作すると(自販機のように)購入できる

 黄CEOは「旗艦店には平日は約7万~8万に、週末になると約10万人が来店します。75%がローカルの人々で30~50代が中心です」と語る。沙田地区は歴史を重ね、住民の平均年齢が高くなっているため、「市場が成熟してきたので、若者を取り入れたいという考えもあります」と大改修した意図を話す。

日本に精通している黄思麗CEO

 客層の若年化対策が4つのゾーンの1つである「スポーツ」で、これは香港では画期的ともいえ、リスクを取ったともいえる。欧米や日本では今や「アスレジャー」はメーカーにも、百貨店にも欠かせない収入源になりつつあるが、香港では(郊外に行けばトレイルが可能で、市街でもバスケット、サッカーをしたりする光景は見られるが)、スポーツをする環境という点は、土地が狭いことから進んでいるとは言い難い。「現在、香港でもスポーツ人口が増え出しています。スポーツは新しいものが好きな若者への訴求力がありますし、あるファッションブランドのスポーツラインは香港が初出店というのもあります」と黄CEOはスポーツの展開に自信を持っているようだ。
 グランドオープンにあたり、ハローキティとくまモンとコラボする他、今後も都道府県の物産店が目白押し。日本を前面に出す戦略には変わりがない。