リテールのお客は子連れの主婦やファミリー客などさまざま。タイに根付き始めたことをうかがわせる光景だ。
日本食店が多数営業しているトンロー地区にある「トンロー日本市場」。売場面積700㎡の市場だ。

 鯛にアワビにホタテにハマチ。発泡スチロールのケースに入れられたたくさんの鮮魚を吟味しながら楽しそうに買物に興じるお客たち。見るからに新鮮でおいしそうなリンゴや梨を大量買いしていく人々。一見、ここがタイであることを忘れそうになる場所がバンコクのトンロー地区にある。日本生鮮卸売市場『トンロー日本市場』だ。

 ミニ築地、いやミニ豊洲のような市場を仕掛けたのは、JALグループの航空関連商社であるJALUX。航空機部品や客室用品、空港用地上機材の他、一般消費者向け商材の輸出などを手掛けてきた商社が、異国の地に日本型生鮮市場を開くというユニークな試みに挑戦したのはなぜなのか。

日本の生鮮市場を丸ごと海外へ持っていく

『トンロー日本市場』の代表を務めるJALUXの遠藤春雄氏は言う。

トンロー日本市場の代表をつとめる遠藤春雄氏。

「航空商社として『日本のいいものを世界へ』をコンセプトに日本の生鮮商品をずっと海外に輸出してきましたが、どうしても割高になる。おいしいのはいいけれど値段がちょっと高過ぎるという声をいただいていました。日本の市場も少子高齢社会であることを考えると、今後縮小は避けられない。だったら思い切って日本の生鮮市場を丸ごと海外に持っていき、適正な価格で販売できる体制を整えようと考えました」

 生鮮市場を構成するには、鮮魚、精肉、青果の業者が欠かせない。しかも、良い品を厳選して売る目利きのプロであることはもちろん、アジア諸国への食品輸出実績もあり、かつ海外への進出に意欲的なチャレンジャーが必要だ。

 最終的にJALUXと手を組んだのは、築地の鮮魚仲卸し・亀本商店、青果卸の長峰商店、名古屋の精肉店 杉本食肉産業の3社。JALUXのタイ現地法人であるJALUX ASIA Ltdと3社は共同出資による合弁会社J VALUE CO., LTD.を設立し、『トンロー日本市場』の開設に至る。

重要なのは「本当に品質が高い商品を適正な価格で」

 もっとも構想からオープンまでは問題山積だった。

「2年半前から動き始めましたが、本当に需要があるのか、果たしてどれだけ売れるのかは未知数。会社を説得するのに2年以上を費やしました」

和牛はタイでも非常に人気があるため精肉売場の定番。牛肉を食べなかったタイ人が変わりつつある。

 バンコクは日本料理店の宝庫であり、在留邦人の数も6万人以上。日本食は人気があるため、日系の伊勢丹のような百貨店だけでなく、タイ資本の百貨店も日本食コーナーを設け、生鮮食品に力を入れている。これだけを聞けば確実な需要は見込めるように思えるが、それは「既に日本食を扱う店が仕入れルートを確保し、一般の消費者も日本の食材を買う場所には困らない」ということでもある。

 だが、以前タイに6年間赴任していたという遠藤氏は、アンケートや対面でのヒアリングを通して「需要は必ずある」と確信したという。

「約60社の日本食レストランには直接ニーズを聞き、さらに120社にはアンケートも実施しました。売れ筋、買いたい商品、価格についてヒアリングを重ねた結果、分かったのが本当にクオリティの高い商品を適正な価格で提供できればニーズはあるということ。とはいえ過去に例がない商業施設なので挑戦であることは間違いない。胃がきりきりする思いを抱えながらオープンにこぎつけました」

エビ、カニ、ホタテ、アワビなどが並ぶ光景はまさに「ミニ豊洲」。5つ星ホテルの利用が増えてきている。