社長は日々を切り盛りし、会長は大所高所から店全体を監督する

保管庫には、モロッコ、チリ、インドネシアなどから輸入した原料が置かれている。
これが、最初の工場と事務所の建物で、ここから伊那食品工業が始まった。

「年輪経営」は塚越会長が提唱した考え方ですが、私は、これはもともと日本の商人全員が備えていたものではないかと思っています。

 近頃、私が感動して皆さんにお薦めしている本で、江戸文化の研究者で法政大学総長であられる田中優子先生の著書があります(編集部注:『世渡り 万の智慧袋 江戸のビジネス書が教える仕事の基本』集英社刊)。その中に、「江戸時代の日本は武家の参勤交代などの影響で商人の移動が激しく、為替などの手形が早くから発達した」ことが書かれています。

 手形取引は信用が元手です。では江戸の商人たちはどうやって信用を得ていたか。田中先生によると、「不正をしない」ことと「儲け過ぎない」ことの2つだったそうです。

 すごいと思いませんか。「不正をするな」、そして「儲け過ぎるな」ですよ。利益優先が当然になった現代からは考えられないですよね。

 ただし、日本で利益優先の考え方が普通になったのはアメリカ型の株式会社が入ってきてからです。それまでは「正しい商売」「儲け過ぎない商売」の方が正しい教えでした。私は、日本の商人にはこの教えがDNAとして生きていると考えております。

 そう思って商業界の「商売十訓」を見てみますと、まさにこの通りですね。

一、損得より先きに善悪を考えよう
三、お客に有利な商いを毎日続けよ
四、愛と真実で適正利潤を確保せよ
六、お互いに知恵と力を合せて働け

 他も全部、まったくもって同感です。そして私は、「不正をしない」「儲け過ぎない」という2つの教えはこれら全部を含むものだと思っています。

「右肩上がりの高成長だけが正しい」と刷り込まれている現代の経営者は、江戸時代の商道徳に学ぶべきです。

 田中先生の本の中にこんな話があります。

 ある店がタコの煮付けを売っていた。そこの店主が、評判が良いのをいいことに、1本減っても分からないだろうと思ってある年から蛸の足を7本にして売るようになった。そして何年か経ち、気付けば6本で売ってしまっていた。ついにそのことが知れたとき、店は一切信用をなくしてしまった。ここですよ、皆さん。ここが大事です。一度7本にすると、気が付くころには6本に、さらには5本にしてしまっているものなのです。「売れればいい、儲かるなら何をやっても正しい」。そんなはずはありません。

 ちなみに、足を減らしたタコを売っていることに最初に気付いたのは引退したご隠居さんだったそうです。今でいう会長ですね。社長は日々の切り盛りをし、会長は大所高所から店全体を監督する。

 この本には社長と会長の役割は違うことも、ちゃんと書かれています。ぜひ皆さんもご一読をお薦めします。

ぜひ、知っていただきたい「寒天」がどれだけ健康にいいか

「こーれが売れてんのよ」と井上社長が持ち上げた商品は「スープ用糸寒天」。

 とはいえ、私が今回、2月ゼミへの登壇のお話を受けることにしたのは、自社の経営指針をアピールして評価を高めたいとか、「商人とは」「企業とは」というような立派な話で尊敬されたいとか、そういった理由からではありません。家庭向け商品ブランド「かんてんぱぱ」の通信販売会員を増やしたいからです。はい、営業活動でございます(笑)。

 そもそも私は、幸いに皆さんが当社をご評価くださるから、それに乗っかって講演などもさせていただいているだけで、自分たちが人さまに偉そうなことを言えるほど立派な会社だとは思っておりません。

 2月の講演でも会場の皆さまにはパンフレットをお配りして、しっかり商品の宣伝をさせていただきますので、そのおつもりでいらっしゃってください(笑)。

 寒天がどれだけ健康に良いか、皆さまは十分にはご存じでないと思います。ですから、2月にさせていただく話を皆さまにより深く理解してもらうためにも、最後に寒天についての予備知識を付けていただきましょう。

 寒天は海藻由来の食材で、食物繊維の王様です。日本では昔から食べられていまして、代表的なのは夏場のところてんですが、今はところてん以外にもさまざまな食品に寒天が使われるようになっています。

 特に当社は、純寒天以外にも、寒天をでんぷんなど他の粉末とブレンドした商品があり、対象となる食用商品ごとに最適な配合で、求められる粘度を出すことができます。細かく分けると約1000種類の寒天商品をそろえておりますから、和洋の菓子店さまはもちろん、国内のほとんどの食品メーカーさまと取引をさせていただいております。

 その寒天の効能について、順を追ってお話ししますと、まず、アジア人は伝統的に大豆をよく食べるせいで、腸内細菌の環境が欧米人と違うのですね。

 大豆のイソフラボンが腸内細菌によって分解されてできるエクオールという成分があります。

 これは更年期障害を改善して骨粗しょう症を予防したり、お肌の状態を良くしたりする成分なのですが、寒天などの食物繊維を食べると、このエクオールを産生する腸内細菌を増やす効果があるのですよ。

 腸内細菌の環境がヒトの健康状態を大きく左右することは今日では常識です。昨年、テレビ番組の企画で、女優の沢田亜矢子さんが寒天を使った料理を1日200g食べたところ、エクオールを産生する腸内細菌の割合が1.6%から3.35%に増えました。

 食べたのはたった5日間です。そんな短期間で、私や皆さんがピンと来る言い方でいうと、純増100%以上の効果が出たのです。すごいでしょう。

 他にも、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手も、奥様の里田まいさんが作ってくれる手料理で、毎食たっぷりの食物繊維を食べているそうです。だから田中投手はプロになって丸10年、おなかを壊したり風邪をひいたりして試合を休んだことが一度もないそうです。これもすごいですよね。

 食生活の欧米化が進み、現代の日本人は腸内細菌環境が狂ってきています。健康は経営者の資本です。寒天はその資本を増強するためのスーパーフードです。

 どうぞ、このことを心していただいて、2月に会場でお会いしましょう。

伊那食品工業本社がある「かんてんぱぱガーデン」(長野県伊那市) は約3万坪の広大な敷地工場、レストラン、喫茶、美術館、健康パビリオンの他、「かんてんぱぱショップ」などを併設し、入場料はもちろん無料、約700台の駐車スペースを有している。
「かんてんぱぱショップ」の店内。

 

※本記事は『商業界』2018年12月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

→「第87回 商業界ゼミナール」参加お申し込みはこちら

第87回商業界ゼミナール 講演一覧。