そして12月になり、私は皆さまもご存じの杉原千畝――第二次大戦中にリトアニア(バルト三国の最南端の国で1944年ソ連編入、91年に独立)の日本領事館で何千人というユダヤ人の命を救った人物――の映画を家族で見てきました。

 それで、年明け1月早々、今は「杉原千畝記念館」になっているその旧領事館の建物が、戦後70年たってボロボロになり、修繕プロジェクトの募金も一向に集まらず、存続が危ぶまれていることを新聞で知ったわけです。

 記事を見た瞬間、「俺の出番じゃ!」と思いました。というのも、塗装に限らず、建築施工業は現場調査から始まります。

 チームを動かす前に誰かが自腹でリトアニアに行き、カウナス市にある現場を視察して、具体的にプロジェクトにどんな絡み方ができるかを相手方と協議して、全体の作業計画を立てなければいけません。

 資材についても、何を現地で用立てて何を日本から送るかの仕分けから始めて、段取りを組まなければいけない。当然何日かかかります。滞在中の費用は全部自腹。はるばる8200kmの渡航費用も含めて、身銭が出ていくだけです。見返りがないんです。

ペンキ塗りって、やった後、誰もが喜んでくれる仕事なんです

 
現地での塗装作業の様子。海外におけるボランティアには困難も付き物で、「ローラーは使わないように」といった事前の想定になかった事態も頻発。急きょはけを2組テープで巻いて対応、現地のテレビ局は「彼らは驚くべきはけ使いでスピーディに塗っていた」「素晴らしい塗装だった」と報道したという。

 と、こんなふうに私が「奉仕」についての話をすると、「できなくてもやれ」「ない袖を振れ」という意味にとる人がいます。無理難題をするのが努力であり奉仕である、と。

 いや、そうじゃないんです。ボランティアだって、本業を犠牲にしてまで活動しろとは言いません。

 ただ、土日の休みにゴルフ場に行って遊ぶ程度の予定しかないのであれば、自分にできることで少しでも社会に奉仕する気概を持ってもいいんじゃないか、ということなんですよ。

 日本電産の永守重信社長は、自社が1兆円企業になってから多額の寄付を始めたそうです。逆に言えば、それまで社会奉仕的なことはしなかったそうで、あれはあれで立派なことですが、私たちの規模では、自社が1兆円企業になるのを待っているわけにいかないでしょう。だったら今から動こう、と。

 せっかく汚いものをキレイにする技術を持っているのだから、それで社会に貢献していこう、と。

 生業(なりわい)で得た利益は何で還元するか? ペンキを塗って得た利益ならペンキを塗ることで社会に還元しよう、と。それだけなんです。

 それで、国内、国外とボランティアを続けてきて、「これはすごいな」と思ったのは、ペンキを塗っている若い子たちの顔つきが変わることです。冗談じゃないですよ。本当に変わるんです。「なんじゃこれは!?」と思うぐらい。実際に見たらビックリしますよ。

 初めて参加する日、現場で朝礼するときは、わっるい顔をしとるんです、みんな。でも、一日ボランティアをやって終礼で集まったら、別人みたいなええ顔になっとる。泣いとるやつもおるんです。

 なぜって、ペンキ塗りって、やった後、誰もが喜んでくれる仕事なんです。キレイになった壁や屋根を見て喜ばん人はいないんです。だから、ボランティアに参加した若い連中も、ペンキを塗り終わったらそこの近所の方から褒められたんですよ。実際には心のキレイなやつらなんです。

 カウナスでのボランティアは、日本の3つの放送局で取り上げられましたけど、その中でNHKのBSで放送された番組(「魂で塗れ!~異色のペンキ屋集団 リトアニアへ」)の中で、私が「(ボランティアに参加している連中は)褒められたいの」と言うシーンがあります。

 あれは塗装職人全員を代弁したんですよ。初めにお話ししたように、ペンキ屋をやっとる者の少年時代は大抵ワルで、人さまからは褒められた経験よりも後ろ指をさされた経験の方が圧倒的に多いんです。そのぶん、大人になってから、「社会に奉仕して褒められたい」という気持ちがすごくある。

 でも、じゃあ明日の朝起きて何をやればいいかなんて、分からんじゃないですか。私たちはそこに具体的な活動を用意して、彼らに分かる言葉で活動の大義を説いて聞かせて、「一緒にやろう!」と背中をたたいただけ。その繰り返しで仲間を増やしてきました。

 そして今、私には一期も二期も含めた塗魂ペインターズが塗装業界の縮図に思えます。いわゆる、人間社会でよく言われる「2-6-2の法則」もちゃんと見えています。

 奉仕の志が高い2割の会社は生業も必ず成長します。今まで人相が悪かったのがいい顔つきに変わったら、お客さまの心証だって良くなりますから当然です。

 逆に志が低い2割の会社は……、一時的には売上げが伸びても、続きませんね。ボランティアをアピールしてお客さまを釣ろうとするような社長の下では社員が成長しませんから。

「本気の人間がたとえ一人ででも動かないと何も始まらん」

 だから、最後に残る永遠のテーマはやっぱり「教育」ですよ。しかもこれは社長自身が成長するしかない。私はもう覚悟しています。トップが成長すれば従業員が必ずレベルアップします。一緒に成長してくれるか、ついてこれずに辞めるか、どっちかだからです。だから、経営トップは成長を止めてはいけない。

 そうした認識の上で、私が今度の商業界ゼミで一番訴えたいことは、「店の大小は関係ない」ということです。小さくても、社会にサービスすることで対価を得ている、商売を営んでいるなら、「(会社が)立派になってから世に還元しよう」という考えはオカシイ。本当に気があるんなら、小さい店、小さい会社であるときから、小さいなりにやれることをやる。金がある人は寄付。腕があるわれわれは腕で。

 われわれは、塗装業界からそれをやろう、と。そうしたら、板金組合、瓦組合、コンクリート組合、土間組合、サッシ組合と広がっていく。それこそ、猿のイモ洗い現象みたいに広がる。

 それで、建設業って国交省の管轄ですが、私は復興庁の管轄にしたらいいと思っているんです。というのは、私たちのような建設関係のボランティア団体が多種多様な分野でできて、それが各地にあって、あとは災害備蓄をしておいてもらえば、災害時には復興庁の下で建設に必要なボランティア組織が一気に動けば、一夜城で人が生きていく三大要素「衣食住」の、住ができるんですから。

 ただ、一口にボランティアといっても、海外のボランティアではいろんな苦労もあります。

 17年9月にリトアニアのカウナス市で実際にボランティアをしたときの話については、どうぞ2月の商業界ゼミを楽しみにしていてください。皆さんも「そんなことがあったの!?」と思うようなエピソードがいっぱいありましたから(笑)。

 ですから、「それでもやるんじゃ!」という本気の人間しかできんわけですよ。それでも、先ほど言ったように、一見、見返りがないように見えるボランティアには、とんでもない見返りがあるんです。

「本気の人間がたとえ一人ででも動かないと何も始まらん」というのは、皆さんのご商売でも同じと思いますが、私が今回のゼミで伝えられるメッセージがあるとしたら、それだと思っています。

※本記事は『商業界』2018年12月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

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