近代小売業によって本物がなくなってしまった日頃、新聞を読んでいても何をしていても、人間とは本当にろくでもないものであって、いかに人間が駄目かということが分かるものです。

 見えっ張りで、人の目を気にして、「あの人と比較して私は幸せだ」とか、「でも、上の人の生活を見ると、自分は月に行けないからまだ不幸だな」と考えるような人間の性――。

「このビルは自社ビルです」と人間の社会では言うけれど、カラスの許可は取っていないわけです。そう言うと普通の人は笑いますが、私はすごく真面目にそう思うのです。

 何で人間がそうやって勝手に決めているのか? 鳥が空から見れば、地上は人間の巣だらけで気持ち悪いだろうなと思う。ネズミとか蜂とか、動物の巣だらけの世界を想像してみてください。気持ち悪いですよね。

 私はそういうところまで考えてしまいますが、そう思考していると、物の見方も変わってくるものです。

 今、アマゾンの誘致合戦で、アメリカのいろいろな州が「議決権まであげるからぜひうちへ」などとおかしな誘致をやっているとき、シアトル近郊のポートランドに住む主婦が、「アマゾンさんとウォルマートさんがそんなに大きくなりたくて場所が欲しいなら、みんなで月の南側の土地をあげましょうよ。そうしたらこの街にはまた、個性豊かな商店が復活して、地域経済も良くなり、私たちもちゃんとした仕事に就けるでしょうから」と新聞の投書欄に書いていました。

 例えば、良品計画の本部の近くの店で、もうなくなってしまいましたけど、マーボーナスの弁当がうまいお店がありました。あるいは、見た目は汚い店だったけど、タンメンやうどんみたいな焼きそばがうまい店など、バツグンにおいしい店がありました。店主が具合悪くて休んでいると聞けば、「うちから修業に行かせるから店を開けてくれませんか」と言って私が手紙を出した店もありました。

 漬物だって、スーパーマーケットや百貨店にはおいしいものはなかなかない。なぜなら、近代流通が「できるだけ多くの量を、できるだけ遠くまで持って行って商売しよう」とした結果、愛情も特徴もなく、添加物がたくさん入った商品だらけになってしまい、「本物」がなくなってしまったからです。

 そうやって、近代小売業がなくしてきたことがたくさんあるわけです。

 米を作ったり野菜を作ったり、豚や牛を飼ったり、船で魚を取りに出たりという人は今、本当にいなくなりました。

 みんなその仕事から離れていく中で、世界の人口が100億人に向かっているというときに、誰が日本人のための食べ物を作ってくれるんですか?

 だから、良品計画では生鮮食品の取り扱いを始めています。今の私たちの使命は、生産者と消費者をつなげること。それは、顔写真を貼ったPOPを店頭に置くだけの単純なものではありません。

 生産者が売場に立ち、「あんたの大根、うまかったよ」と言われるような交流があって、「じゃあ、もっとうまくしよう」と言いながら、11月の大根の収穫期には消費者が畑に行って大根を一緒に掘って、それを使った大根鍋を食べるという関係をつくることが、今の小売業の役割、使命なのではないかと私は考えています。

 そうしないと、作り手がいなくなってしまいますから。われわれ全員、そういう方向で仕事をしようということであり、それは、売る立場の発想ではなくて、結果的にお客さまがどう思うかということでもなくて、「売る側が、お客さまの気持ちで考えることが重要だ」ということです。

 でも、それこそが、倉本長治さんの精神なんじゃないでしょうか。

※本記事は『商業界』2018年12月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。

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