私が似たような文章を書いて「こうだよ」と言うよりも、戦後の荒廃した日本において、倉本さんのような商業経営の指導者が現れ、中内さんや岡田卓也さんなど当時の日本のチェーンストアを目指す若手経営者を鼓舞し、それに呼応するように彼らが立ち上がっていった、という事実を、背景も含めて伝えたかったのです。

 ただし、日本のチェーンストアの「その後の」歴史を見ると、当時、倉本さんがおっしゃっていたことをどこで忘れてしまったのかな?とも感じています。

 そういう想いも含めて、倉本さんの生の言葉をそのまま使わせていただいたのです。要は、当時の中内さんたちが倉本さんから鼓舞されたのと同じことをしたかったんです。

 というのは、いまだに小売業のポジショニングは飲食業も含めて決して高い位置にはなく、それに対して「そうじゃないんだ」「商業は極めて重要なミッションであり、大きな使命を持っているんだ」ということを無印良品で働いているみんなに伝えたかったし、現場のスタッフの人たちが自分で意志を持って、自分で考えて仕事をすることが大事で、それこそが価値を生むんだ、ということを私は伝えたいと思いました。

二律背反をやってのける強力な番頭が必要だった

 

 商売とはもともと地域に根差しているものです。それがすごく大事なことなのに、チェーンストアはそれを忘れてしまったのではないか?

 チェーンストアだから、本部機能が店舗の役に立つために存在することはとても合理的なことです。ところが、現実には、本部が決めて店舗が作業するということになってしまって、まったく理にかなわなくなってしまった。

 そのころ堤清二さんは、「ハードのチェーンストアではなく、ソフトのチェーンストアをつくるべきだ」と言っていました。

 ハードとは、品揃えから、什器から、建物から、接客応対から、全部統一したチェーンストア理論の標準化の中で、よく言われていたような内容です。そうではなくてソフトとは精神です。「精神を共有しながら、店舗が地域に根差し、地域に向いた商売をやりましょう」ということを言っていたわけです。

 これは堤さんの功罪とも言えますが、彼はたくさん会社をつくりました。そして、会社を「つくり終わった」のではなく、常に「つくる途中(過程)」にもかかわらず、他にもやらなければいけない事業が、あの人の頭からはたくさん湧き出てくるわけです。

 しかし、二百何十社もつくって、それを全部自分が面倒を見るわけにはいかない。当然、人に任せるのですが、単純に言えば、セゾンには二百何十社をまっとうに経営できるほどの経営者が育っていなかった。だから、どの事業が良かった悪かったではなく、今から考えればみんな事業としては良かった。ただ、それを誰がやったかということ、それだけです。

 堤さんは、「ここに川をつくって街をつくるんだ」と言って、普通はやらない投資をどんどんやるわけです。

 でも、「ショッピングセンターをつくるんじゃなくて、街をつくるんだ」というその概念自体は間違っているかというと、正しいんです。だからショッピングセンターの敷地内には「川も欲しいし、ホタルもいる所をつくりたい」というのは正しい。

 ただ、それをどう具現化しようかというとき、投資はどの程度に抑えるべきか計算すれば分かるわけで、そこと堤さんの考えと、この二律背反をやってのける強力な番頭がいないとできないわけです。

 ビジネスは二律背反です。そのつじつまをどう合わせるかが「仕事」です。

 確かに、堤さんは飛び過ぎていた。それに対して、セゾンの人たちはみんな、「できません」とは言えなかった。それが罪なのです。

 結果、そうできない番頭たちが、ばんばんやってしまったというだけの話だと思います。
最初は疑われながらも何年もかけてやっていくしかない。

 私もこういう立場になってくる過程で、いろんなことを考えました。今は会長をやっていますが、私が常務だったころ、良品計画は一度業績が悪くなった時代があって、当時は正直言って今の私が否定しているような本部と店舗の関係の時代でした。

 それがそのころのうちの体質だったわけですが、(前会長の)松井忠三も含めて、それをひっくり返して、ひっくり返したものを仕組みや制度に落とし込んで運営化し、それを磨いていこうとしたわけです。

 小売業の改革は簡単ではありません。小売業の業績が悪化したときに、いきなり現場に思考力が働いたり、改革する意識や概念が湧き出るように社員を育てていたかといえば、そうではない。

 本部が「こうやれ、ああやれ」と言っていた会社の現場では社員がそんな風に育つわけがないんです。

 だから、「現場が主役なんだ」ということを言葉としてまず提示しながら、みんなが「この会社は本当にそう思っているんだな」と実感してもらえるようなことを――最初は疑われながらも――何年もかけてやっていくしか、やり方はなかったわけです。

 業績的なことの回復なら、バランスシートを見て経費を落としていけば、営業利益ベースでは改善します。

 しかし、その営業利益の回復に見合った商品力をどうするかとか、販売の仕組みをどうするかということを、現場を主役にして立て直すには、何年もやり続けなければならない。

 無印良品の改革についても、どこかの時点で店舗の現場側からある程度は信用されたのかもしれませんが、いや、まだまだ全部は信用されてはいないのかもしれません。

 だから、店舗から本部にもどんどん意見を挙げてもらい、本部はそれを改善する。店舗から挙がってきたものに対して、できるだけ店舗の意見を尊重して変えていく、ということの積み上げが必要なのだと思います。