(株)良品計画 代表取締役会長 金井政明

 かない まさあき●1957年10月13日長野県生まれ。76年4月、(株)西友ストアー
長野(現・合同会社西友)入社、93年9月、(株)良品計画入社、2000年5月、同社
取締役営業本部生活雑貨部長、01年1月、同社常務取締役営業本部長、03年5月、
同社代表取締役専務取締役(兼)執行役員商品本部長(兼)販売本部、宣伝販促室
管挙、08年1月、同社代表取締役社長(兼)執行役員、15年5月、同社代表取締
役会長(兼)執行役員
★講座は2019年2/19(火)15:40 ~ 17:00の予定

 

「売る側が、消費者の気持ちで考える」それが倉本長治の教えだ

 5、6年前だったと思いますが、広島の「アンデルセン」というパン屋さんの先代の奥さまが、新聞のコラムで「雑巾がけは自分の精神も磨く。そういうことがすごく大事な教育なんだ」といったことを書いていらっしゃるのをたまたま読みまして、その方に直接会いに行ったんですね。

 その足で同じ広島のイズミさんに寄って、社長の山西泰明さんにその話をしたところ、倉本長治(商業界創立者)さんの話が出て、「当時の商人は、倉本先生の講座を聞いて、すごく勇気をもらって立ち上がったんだ」と聞かされたわけです。

 その一方で、私には「会社の規模が大きくなると人が増え、いろんな部署ができた結果、社員の仕事が『バケツリレー』のごとく流れていってしまう」という経営者としての悩みがありました。

 会社に人が少ないころは、数人でバケツ全体をA地点からB地点まで持っていくしか方法がありませんから「バケツリレー」はあまり起きないのですが、会社が大きくなってくるとパーツごとに仕事が分断されていってしまう。

 ならば、その「バケツリレー」を何か1本の筋でつなげて、それぞれの仕事がクロスして分断されないチェーンのような構造にしていけばいい。

 そのために必要な横串は「商売の原点」や「お店の原点」といったことをみんなで共有することではないかと考えて、私自身が倉本長治さんの残した文献を当たり、言葉を選び「倉本長治先生語録10選」という小冊子を作って、無印良品の店長はじめ社員に配布したんです。選んだ語録は「本来、無印良品はこうあるべきだろう」ということを端的に表したものばかりです(写真)。

↑金井会長が自ら選んだ「倉本長治語録10選」の表紙と中身。この小冊子を良品計画の従業員に配布している。選ばれた語録と原典は以下の通り。「損得より善悪が先」(商人讃歌他)、「商人の道、人間の美しさ」(岡田徹の講演より/1956年7月25日)、「真の繁昌はくり返し」(店主宝典・考える商人・商人讃歌)、「儲けは目的ではない」(孫子と商法、商人の哲学、商店経営読本、商人讃歌より)、「実行第一」(店主宝典・店主帝王学・商人論語より)、「数と量への宣戦」(商人の哲学より)、「ほんとうの専門店」(商店経営読本より)、「小さな店こそ」(店主読本、岡田徹詩集ほかより)、「商売の競争」「金儲けと商売の違い」(商業界二十年より)

無印良品の「消費社会へのアンチテーゼ」と倉本長治

 日本の近代小売業の原点として、「戦後、荒廃から立ち直るためには、地域の商店がまっとうな商売をして地域の役に立たなきゃだめなんだ」「日本再興のためには地域に根付いた商人が必要なんだ」と説いた倉本長治さんのお話には、その後、日本で広がったチェーンストア理論のさらに元となる「商人の原点」があって、「商人の使命」が書かれていると思います。

 その意味で、セゾングループの堤清二さんは、金太郎飴的なチェーンオペレーションに関しては極めて懐疑的であり、それに倣ってセゾングループの各社は、チェーンストア的価値観とは一線を画した価値観を持っていました。

 その結果、セゾンは緩やかな統制下にあって、個店の現場力が非常に大事にされ、そこはイトーヨーカ堂さんやイオンさんとは全く違う体質であったと思います。

 もちろん、それは強みにもなれば、弱みにもなる。功罪もあって、われわれ良品計画としては、その功をいかに伸ばし、罪をいかに減らしていくかというところが常に問われてきたのですが、そのための一つの軸を作ろうと考えたことが、倉本長治さんの話につな
がってきたわけです。

 

 もともと無印良品には、極めて強くはっきりした思想概念があり、その一つの軸が「消費社会へのアンチテーゼ」でした。

 時に「セゾンは売ることにあまり価値や目的を認めていないのではないか」といった誤解を受けることもあったわけですが、そうであるからこそ、そこに「商人」ということ、「売る」ということ、「商う」ということが、どのくらい世の中にとって大切なことなのか、という一本の筋を通したかった。

 私が選んだ倉本長治さんの言葉は、私たちの店長やスタッフの皆さんにきちんと認識をしてもらいたかったことですが、元の言葉に忠実に、そのまま配布しました。