福島県のローカル線、会津鉄道の「芦ノ牧温泉駅」には猫の駅長がいます。人間の駅長もいるので、名誉駅長という肩書きで、アメリカンカール種の「らぶ」です。耳がクルンと巻いていて可憐な表情を見せる「らぶ」。名前も見た目にピッタリですが、実はオス。あまりのかわいさと、性別の判断がしにくい病気「停留睾丸(手術済み)」だったので、ずっとメスだと思われていた駅長猫です。

芦ノ牧温泉駅の前には3匹のポスターが飾られています。芦ノ牧温泉の宿泊客が自動車で立ち寄ることもあります。

「らぶ」に会いに行ったのは、この路線が1年で一番賑やかになる紅葉のシーズンでした。芦ノ牧温泉駅に到着する車両は、どれも観光客でいっぱいです。団体客はそのままこの路線の先にある「大内宿」や紅葉の名所「塔のへつり」を目指しますが、個人客は「らぶ」を目指して駅に降りるのです。さて、当の「らぶ」はというと、駅長らしく切符売場窓口の中で待機しています。実際は、ゲージの中でぐっすり寝ているのですが、駅長の証(あかし)である帽子はかぶったまま。さすがです。

 この日は多くの観光客が訪れたこともあり、駅長の勤めである1日数回の駅舎内パトロールの日課を果たしていません。そのせいでしょうか、ホームに現れた「らぶ」は、まるで電車並みのスピードでドンドン前へ進んでいきます。見た目と違って力強く、頼もしい猫駅長さんです。

 そんな駅長「らぶ」と共にパトロールしていたのが、芦ノ牧温泉駅の広報、小林洋介さんです。実は芦ノ牧温泉駅は小林さん家族が営む家族経営の駅(お母さんが駅長)。元々、会津鉄道は旧国鉄の会津線を引き継いだ第三セクターの会社で、無人駅以外の駅は地元の住民が担っています。そこで会津鉄道から芦ノ牧温泉駅の管理運営を委託されたのが小林家だったのです。今でこそたくさんの人で賑わう駅ですが、洋介さんが幼いころの駅は、学生か近所の住民が乗るぐらいで、観光客の利用などはほとんどありませんでした。故郷は過疎化が進み、洋介さんも上京。そのまま東京人として過ごしていました。ですが、そこに思いも寄らない変化が起こりました。

駅舎を中心に自由に行き来していた「ばす」。駅長猫として7年8カ月間、駅長業務を行いました(写真提供:芦ノ牧温泉駅)

 近所の子供たちに保護された猫「ばす」が初代の駅長猫として就任。一躍人気者になったのです。1匹の猫が招いた変化は洋介さんを東京から地元へ引き戻すまでに至りました。「ばす」から「らぶ」へ駅長職を引き継いだように、小林家も次世代が存在感を増していきます。駅待合室に「Cafeばす」をオープンしたり、オリジナルグッズを増やしました。今風のアイデアで芦ノ牧温泉駅と、駅長猫を盛り上げています。 

 18歳と高齢になった「ばす」は、2016年4月22日の最終電車が生涯最後に見送った電車になりました。人間の駅長と駅員が見守る中、永遠の眠りにつきました。今は敷地内にあるハナモモの木の下で眠っています。そのハナモモの名にちなんだように、「らぶ」の弟分猫「ぴーち」も芦ノ牧温泉駅に迎え入れました。ここの施設長として「ばす」が開いた道をさらに広めています。

 駅長「らぶ」の活躍は駅構内だけに限りません。会津鉄道のPRはもちろんのこと、福島県内のイベントに出向したり、アニメのキャラクターとして登場したり、地元の蔵元とのコラボで2匹がラベルになった純米吟醸酒も発売になりました。

 そして「らぶ」はついに今年の7月、歴史ある「芦ノ牧温泉」の観光大使に任命されました。洋介さんにとっては地元の馴染みの温泉街です。「猫なのにこんな大役をいただいてしまった」と「らぶ」の偉業を誇らしげに語ってくれました。

この日は、初めての駅構内の巡回とあって勢いよく動く「らぶ」。他の業務は、列車のお見送りや待合室での触れ合い。それ以外は窓口の中で寝ていることも。
芦ノ牧温泉駅の広報、小林洋介さん。「らぶ」も抱っこされて安心した表情です。「らぶ」と「ぴーち」は洋介さんといつも一緒に出勤するそうです。
1年以上の駅長見習いを経て2015年末に名誉駅長に就任。平成26年4月10日生まれアメリカンカール種の4歳。
駅周辺はのどかな田園地帯が広がります。パトロールはらぶ駅長の意思でコースが決まるようです。
木造の暖かみのある駅舎内。お土産のスペースと手前のイスとテーブルがコーヒー、紅茶などが楽しめる「Cafeばす」のコーナー。
駅構内で販売している3匹の生写真も売れ筋グッズ。主に小林洋介さんの奥さんが撮影した写真が並びますが、びっくりするほど上手。これもネットを使った発信にとても重要です。
初代「ばす」と2代目のツーショト。「らぶ」は見習いとして2年程の時間を「ばす」と過ごすことができました(写真提供:芦ノ牧温泉駅)
在りし日の初代駅長「ばす」はチンチラとキジトラ猫のミックス。地元の小学生に保護されて以来、駅舎が「ばす」の住処になりました(写真提供:芦ノ牧温泉駅)
「ぴーち」は「らぶ」の2最年下の弟猫。平成28年7月18日生まれアメリカンカール種の2歳。施設長の肩書きなので、ヘルメットがトレードマーク(写真提供:芦ノ牧温泉駅)
2匹はコスプレで警察署長を努めるなど、駅だけに限らず、活躍の場がどんどん広がっています(写真提供:芦ノ牧温泉駅)
駅に到着したかわいい車両は鉄ちゃんにも人気。因みに車内はフリーWi-Fi。インバウンド観光にも力を注いでいるのがうかがえます。
全国の鉄道で働くキャラクター「鉄道むすめ」やテレビアニメ「ノラと皇女と野良猫ハート」とのコラボ(メインキャラクターが芦ノ牧温泉駅の名誉副店長に就任)で若者向けにメディアミックスで積極的にアピール。左側の猫キャラは「ピーチ」。
会津にある蔵元「栄川酒造」とのコラボレーションで生まれたお酒「ねこ駅長 純米吟醸」。ラベルには正装姿(仕事着)の「らぶ」と「ぴーち」の姿があります。

 

猫が働く駅 
会津鉄道 芦ノ牧温泉駅​

住所/福島県会津若松市大戸町上三寄乙49
勤務時間/9時~16時(年中無休)
※勤務時間は2匹の体調により変更になる場合もありますので、事前にサイトでご確認ください。
HP/http://ashinomakionseneki.com/