トヨタ自動車は「標準化+QC」による改善でできた企業

 編集部:テイラーが方法を発明して推奨した生産性を高くする作業標準化が、日本の小売業では行われなかったということですね。

 吉田:そうです。標準化の方法は、わが国の製造業での戦後のIE(Industrial  Engineering:産業工学)になっていきました。IEの方法による作業分析は、大学の工学部で必須の知識として教えています。

 このIEを徹底した代表がトヨタ自動車です。トヨタは本部による工場の組み立て作業の徹底した標準化(現在はロボットによる自動化になっています)を図る一方で、現場作業者の提案による標準化を「カイゼン」として加えました。

 これが1970年代後期からの現場によるQC(仕事の品質管理)の導入です。このトヨタの仕組みが、本部による荒くて穴のある標準化だったアメリカメーカーを超えて、世界一になった主因です。

 現在では、欧米のメーカーも、トヨタの「現場主導での改善」をまねています。現場作業者にも、工程と作業改善への動機を提案として与えるトヨタの方法は、故障が少なく、品質の高い車を生産できることが分かったからです。

 本部から現場作業を標準化することは、本部の現場への命令・統制でもあり、現場ワーカーの「いい車を作る」という仕事の動機を阻害することでもあるからです。

「決まった通り、あるいは本部から命令された通りにやればいい。それ以上はしなくてもいい」ということになるからです。トヨタのカイゼン方式を入れる前の米国メーカーがこれでした。このため、本部からの標準化からは漏れることがある細部まで、品質のいい車を作ることはできなかったのです。

 カイゼンの提案は経営参加になります。経営とは、自社と他社の既存車より、いい新車を作ることです。この目標に現場社員が参加するのがトヨタ式のカイゼンです。トヨタの工場作業者は「トヨタの車は自分が作った」と思っているのではないでしょうか。

 編集部:トヨタは標準化+QCによる改善でできた会社ですか。なるほど。その標準化作業が、今は自動ロボット化になっているのですね。つぎはAIでしょうね。AIで完全自動で車ができるのも近い感じです。アマゾンの無人店と同じ発想ですね。

 ところで……、生産性の改善で大きく遅れてきた日本の小売業で標準化を図るためのIEを学んだ工学部出身を求めて入れたということは、聞いたことがありませんね。

 吉田:店舗数が100店を超えても、経営者が作業の標準化には、学問としてIEで樹立されている作業分析の方法を使うべきだということを、知らなかったからです。組織的な作業手順、順序と時間を図示することができるガントチャートの実践的な利用も、IEからきていますね。生産性を1.5倍以上に高める作業標準化の重大な必要性を知っていれば、懇願してでも、入れたでしょう。

 それともう1点、このシリーズの最初に取り上げた、正社員と同じ労働内容でも、定期賞与を含む時間給では正社員の約3分の1になる800円から1000円でパートが採用できたことがあります。

 新店を作ったとき、それまでは正社員が行っていた作業を新しく雇用したパートに置き換えると、人件費が3分の1に下がったからです。これで「生産性が上がったかのような経営的錯覚」が生じていました。

 このため、IEの方法で作業分析をし、現場作業を標準化して人的な生産性を上げる方向が迂遠に見えてしまい、生産性改善の目が摘まれてしまったのでしょう。