2017年8月に新業態「しゃかリッチ」をオープンしたしゃかりきのオーナー・清水友彦氏。

 タイは今、空前の日本食ブームだ。現地発の日本食レストラン、日本から進出したレストラン相まみえての熾烈な競争が繰り広げられている。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の調査によると、2017年度のタイの首都バンコクの日本食レストラン数は1739店舗と前年度に比べて0.8%減。前年割れは09年の調査開始以来、初めてだ。参入しやすい居酒屋や焼肉店などが急増し、競争が激化。撤退が増えている。

 そんな過当競争に突入したタイの外食市場で今、最も勢いがある企業といえるのが、清水友彦氏が率いる居酒屋チェーン、しゃかりき432"だ。

ユニークなフレーズが踊る張り紙やちょうちんはしゃかりきの名物。清水氏が考案している。

 店舗数は既にタイに18店舗、ミャンマーに2店舗、日本に1店舗。17年9月にバンコク市内のモールにオープンした、しゃかりき432" INT Rama3店は総席数400席。室内テーブル席の他、畳の完全個室、ルーフトップ席も完備し、常時ビアガーデンを楽しめる。11月には100席のオンヌット店がオープン予定だ。

 17年以降も、既存店の増設やリニューアルなど新規の計画は目白押し。かすうどん、たこ焼き、もつ鍋といったメニューでタイ人の胃袋をつかむことに成功したしゃかりき432"には、タイ人しか利用しない超ローカルなモールからの出店オファーも相次いでいる。

 現地の日本人をターゲットしている日本食レストランが多い中、しゃかりき432"の客層の半数以上はタイ人が占め、しかも清水氏は個人での進出だ。大手外食産業でもなければタイにもともと強いネットワークがあったわけでもない。にもかかわらず、しゃかりき432"をここまで育て上げた。

セントラルキッチンを持ち、専用農場で米、野菜を育てる

食材の安定供給を図るために設けたセンター。日々、魚や肉、魚を一次加工している。
スピーディな店舗展開を支えるためセンターには店で使用する食器や什器なども全てそろえた。

 成功要因を探る過程で見えてくるキーワードは「仕組み化」だ。清水氏は、料理の味や品質の安定化と従業員の定着化を可能にする仕組みづくりに力を注いできた。そのプロセスをたどってみよう。

 大阪で居酒屋しゃかりき432"を立ち上げ、最大6店を運営していた清水氏は11年にタイ進出を思い立ち、12年に市場調査をスタート。12年5月からタイに移住し、同年7月に1号店となるアソーク店をオープンした。

 大洪水、反政府デモ、クーデターなど外食業界に大打撃を与える事件が毎年のように続きながらも、1号店は順調に売上げを伸ばしていく。

「デモのときには店の前が長期間、通行止めになりました。大変な時期でしたが、全体からいえばタイミングが良かったですね。ちょうど日本食の人気が高まっていたときでしたから」と清水氏は当時を振り返る。

 13年に日本街店、14年2月にタニヤ店を出店し、店を4店にまで増やした14年。清水氏は味の安定化を試みた。各店による味のブレをこのまま放置しておけば客離れが起きてしまうと考えたからだ。

 まずバンコク市内にセントラルキッチンを開設。ここで味の均一化が難しい煮物や汁物などを作り、各店舗で配達する仕組みを整えた。料理は夕方に調理し、劣化を防ぐために当日の営業中にさばくシステムだ。

「これによりお客さまからのクレームはずいぶんと減りました。食材の傷みも減ったし、店舗の仕込みも楽になった。コストダウンを図ることもできました」

ラオス国境近くには専用農場を確保。有機農法で生産した野菜はしゃかりきの店頭でも販売している。

 15年にはラオス国境のルーイ県に専用農場を開設している。農場の面積は東京ドームの約2倍。東京農業大学出身の従業員の管理下で委託栽培しているのは、ホウレン草や水菜、春菊、レタス、大根、キャベツ、白菜、玉ネギなど。有機栽培で育てた日本品種の高鮮度の野菜はタイ人客にも好評だ。

 収穫した野菜は週に3回、セントラルキッチンに配送し、検品した後に一次加工を施した上で各店に配送される。配送は専用車で行っているが、バンコク市内は渋滞がひどいため、渋滞事情を鑑みながらバイクを使うケースもある。スピーディな配送のために専用車とバイクを使い分けている格好だ。

 17年には3000万円を投資し、バンコク市内に新たなセンターを開設した。食材を5℃、8℃など種類ごとに最も適切な温度帯で管理できる冷凍ケースや冷蔵ケース、一次加工場、店舗で使用するいすやテーブル、食器、厨房で用いる調理器具や調味料などを備えたセンターの充実ぶりは圧巻だ。安定供給と品質の維持を図り、多店舗展開を効率的に進めていくためのベースとして機能している一大基地である。

「これまでは店を出店するたびに店側で個々に仕込みを行い、什器や食器も寄せ集めのようにそろえていましたが、それでは時間がかかりすぎるし、店の負担も重すぎる。2カ月に1店のペースでのスピーディな出店を支えるための施設です。いずれはサプライヤーとしての機能も担っていきたいと考えていますが、まずは自分たちが安定しないと(笑)」

 日本食の核ともいえる米についても、ようやく理想とする品質が実現できたという。現在は、タイ北部地方産のササニシキを使用しているが、やはり北部地方で新たに栽培を始めた日本米のコシヒカリの第1弾がいよいよ17年の年末に収穫の見込みだ。

 光で育て、ちぎって食べられる「生きている野菜」もまもなくメニューに登場する。鶏卵や豚肉、鶏肉も新たな調達ルーツを模索中だ。300を超えるメニューを効率的かつ高品質に提供するための仕組みは日々進化を遂げている。