ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長・本田哲也さん。
当記事は「ソーシャルトレンドニュース」にて2018年9月18日に公開した記事の転載です。元記事はこちら

 PR発祥の地はアメリカ。広大な土地で人々の意識を変えていくためには、情報の伝え方を戦略的に行う必要があったのだ。伝えたいメッセージと、社会の関心テーマを結ぶ文脈を作るのがPR発想とも言える。

 一方、日本におけるPRはメディアへの掲載を獲得するための、いわゆる“パブリシティ活動”に留まってしまっていることが多く、グローバル基準のPRとは差がある、遅れている、と指摘される。世界のトレンドは今どうなっているのか? なぜ日本のPRは遅れていると言われるのか?

 日本を代表するPRパーソンであるブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長・本田哲也さんと共に、広告やマーケティングの最先端とも言える『カンヌ・ライオンズ2018』を振り返りながら紐解いていく。

カンヌで評価される“ソーシャルグッド”とは

――ここ数年のカンヌといえば、ソーシャルグッドをテーマにしたものが数多く受賞している印象です。

 

「今年の2018年のカンヌを振り返っても、ソーシャルグッド、特にSDGsをテーマにしたものの受賞が目立ちました。貧困だとか、ジェンダーイコールですね。PR部門では特にその傾向は顕著です」

※SDGs…「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。国連が掲げている2016年から2030年までの国際目標で、「地球上の誰一人として取り残さない」ことを目指す。

――今年のPR部門でグランプリを受賞したのも、SDGsのひとつである海洋環境保護をテーマにした『ゴミ諸島』でしたね。

「はい。カンヌでは確かにここ数年はソーシャルグッドなものが受賞する傾向にありますが、エントリー作品にもそれを狙ったようなものが増えてきてしまっている。そういったものは完全に排除されて、限られた地域でのグッドは評価されにくくなってきてはいます」

日本にはなぜ“ソーシャルグッドな企画”がない?

――世界ではそういったトレンドがある一方で、日本国内ではあまりソーシャルグッドな企画というのは少ないように思います。

「日本は残念ながらそういった施策は目立っていません。……というより、そもそも無いんですよね。なぜかというと、一般の人だけでなく、PR戦略や広告を仕掛ける立場の人ですら当事者意識を持てていないから。そんなことよりも、『まず目先の売上げが大事です』、『この春夏のキャンペーンをどうにかしないと売上げが……』ということになってしまう」

――当事者意識を持てないのには、どのような原因があると思われますか?

「日本は島国、単一民族など、ピンと来づらい環境なので、仕方ないところはあります。でも今後、日本の人口は減っていく一方で、マーケティング活動をグローバル化しないわけにはいかない。だから当然、この温度感は合わせていかなきゃいけないんです。やらないよりはやった方がいいという時代は終わって、やらないと売上げが確保できない、ビジネスが止まるというレベルにもう来ているのですから」

社会問題はマーケティングに直結する

――世界では、目先の売上げよりも、社会問題への取り組みが重要視されているということでしょうか?

「完全に切り離された話ではありません。ユニリーバやP&Gといったマーケティングのトップ企業は、もう3年前くらいから、ブランドが社会課題に貢献することが売上げも上げるという仮説を持って取り組んでいます。で、社会問題と絡めたキャンペーンとそうでない通常のキャンペーン、どちらの方がより効果的かという比較検証まですでにやっているわけです。エンゲージや好意度のリフト、さらには売上げの部分まで」

――すごいですね。すでにその結果は分かってきているのでしょうか?

「カンヌの話に戻ると、ユニリーバは今年、ダイバーシティの重要性をテーマにセッションを行いました。その中で、社会的なサステナビリティに配慮したブランドのほうが成長し、ビジネスに差をもたらすということを、グラフを使って証明してしまった」

「“おっ”と思いましたよね。これはもう、売上げアップやブランディングに直結している時代なんだなと。かつてのように『社会問題についてはCSR部にお任せ』なんて言っていられる状況ではなく、経営者やCMOが自分ゴト化して取り組まなくては。日本はその意識がまだ2、3周遅れているなと思います」

日本の取り組みに、世界が注目している

――現代のマーケティングにおいて、社会問題は直結している。そうはいっても、すぐに日本人の意識を変えるのは難しいのではないでしょうか。

「そうですね。じゃあ『正直あんまりピンと来ないけれど、難民移民の問題に取り組んだほうがいいんですか?』というと、そうではない。“自分たちがやるべき理由”が見つからないのに無理矢理やるというのは、炎上しかねません」

――日本企業が取り組むべき社会問題、本田さんは何があると思われますか?

「僕は絶対に、“高齢化社会”の問題はそのひとつだと思います。これは世界の中でも、真っ先に日本が直面する。逆に、“これから日本はどうするのか”というのは、グローバルから非常に注目されているんです。カンヌなんかにいても、『なんで日本の企業は高齢化社会をテーマにキャンペーンをやらないのか』って聞かれるくらい。もちろん、売上げにも直結する話でしょうしね。ある意味、これは大チャンスなんですよ。個人的にも、何か仕掛けたいなと考えています」

マーケティングに関わる全ての人に求められるスキル

――最後に、若手のマーケターやPRパーソンに向けて、何かアドバイスなどがあればお願いします。

僕はPR発想とクリエイティビティを持っている人がとにかく強いと思っています。PRパーソンはどちらかというとファクト重視で、圧倒的にクリエイティビティが足りない。その真面目さは非常に重要なんですけれどね。でもそれだけだと、今の時代はスルーされてしまう。飛躍する考えという意味でのクリエイティビティが必要です」

「逆に広告系の人は、PR 的な発想が欠けている。若手の人はだいぶ進んできたなと感じますが、クリエイティビティに寄り過ぎて面白いことしか考えられない人は、どこか独りよがりになってしまう。今の時代、特に『それが社会のためにどうなるの?』となってしまうんです。ここの文脈が伝わるようにするのがPR 発想 ですよね」

――どんな立場にいても、目指すべきは同じで、“PR発想とクリエイティビティの両方”であると。

「そういう人が事業会社のマーケターにもいて、 PR 会社にもいて、広告代理店にもいて、インフルエンサーマーケティング会社にもいて、フリーランスにもいて……。そうなってくると、すっごく面白い。いろんなキャンペーンがパワーアップしますし、カンヌみたいな場でも、欧米と並べるようになるんじゃないかな」

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