プライシング政策とハイテク

 ハイ&ローかEDLPかは価格政策の永遠の課題のようにいわれるが、EDLPは圧倒的寡占企業のみ可能な例外だから選択の余地がない。消費心理学でも比較購買と囮の効果は証明済みで、ハイ&ローと二重価格表示は不動のプライシング政策といわざるを得ない。

 

 二重価格表示については景品表示法の規制があるが、消費者庁による摘発は不自然に恣意的で、野放しで不正な成功を謳歌する企業もあれば些細な難癖をつけられて困惑する企業も見られる。二重価格のみならずPOPやアフィリエイトには「有利誤認」を仕掛ける荒技が氾濫しており、消費者保護もいたちごっこを強いられているから止むを得ないのかもしれないが、正直・公正な小売業者としては憤まんやる方無い限りだろう。

 二重価格はともかく粗利ミックスなハイ&ローや囮価格はプライシング・スキルの問題で、賞味期限も絡めばマークダウンやキックオフのタイミングや使い分けが問われる。

 需給と賞味期限が価格を動かすのは航空券や宿泊施設とて同様で、ネット予約の一般化とともに平日と週末、オンシーズンとオフシーズン、早割や逆のギリ割、席/部屋タイプや顧客タイプによるダイナミック・プライシングも定着し、AIによるパーソナル・プライシングさえ始まっている。ECでも需給や賞味期限によるタイムセールやクーポンが乱発気味で、AIによるダイナミック・プライシングやパーソナル・プライシングが一般化するのも時間の問題だろう。

 店舗販売が後手に回れば売上げを奪われるのは必定だから、店舗のプライシングもECサイトと自動連携され、棚の電子値札やタグのスキャニングで即時に売変されるのが日常風景になるのも秒読みではないか。販売がオムニチャネル化しても売変はズレますでは済まされないだろう。

プライシングの極意は?

 タイミングや値下げ幅はAIを駆使するにしても、プライシングのスキルはマークダウンとキックオフ、まとめ割引(ボリューム・ディスカウント)の使い分けに尽きる。

 マークダウンは不可逆的値下げだが、キックオフは実施期間が過ぎれば元の価格に戻す一時的な値引きで、立ち上げ直後(景品表示法で2週間の正価販売を要する)の勢い付けや販売ピーク前後の消化計画達成に使われる。売れ残ってから期末に値引きするより期中にキックオフや小幅の値引きで機動的に消化を図る方が歩留まり率は格段に高く、当社主宰SPAC研究会メンバーでは値引きロスで5.6ポイント、商品回転で1.9回転もの格差があった。「見切り千両」とはよく言ったものだ。まとめ割引は客単価アップに効果的だが、売れ残り品番にECみたいなセット買いクーポンを付けてコーディネイトに組み込むのも効果的ではないか。

 もっと劇的に値引きロスと残品を圧縮するのが、不振SKUのみ二次展開店舗に移動して値引き販売し、残したSKUはプロパーで売り切る手法で、当社主宰SPAC研究会メンバーの平均で7.1ポイントも値引きロスを減らす効果があった。やったことのない企業には想像がつかないかもしれないが、営業利益率を5ポイントも引き上げる“戦術核兵器”なのだ。

 AIやITのハイテクも現場のリアルな運用につながらないと実効をあげられない。まずはトップや大幹部が自ら売場に立って“売り切る”再編集スキルや二次展開店舗移動を実証するのが先ではないか。 

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老舗とIT ―時代を生き抜く技術と精神―

店を取り巻く環境は日々、刻々と移り変わっている。旧態依然のやり方を漫然と続けていては、時代の変化に気付かぬうちに取り残されてしまう。長きにわたって連綿と生き永らえる「老舗」こそ、時代を先取りし、変化に対応する新しい技術を取り入れ続けてきた存在だ。翻って現在、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)をはじめとしたIT導入は、大型店だけの課題ではない。揺るぎない精神を守り続け、新しい時代を生き抜く技術を会得しながら永続してきた老舗たらしめるゆえん。老舗×IT。今、取り組むべきときが到来している。