ハイ&ローかEDLPか、期中値引きか期末処分か、キックオフかマークダウンか……、価格政策やプライシング・テクにはさまざまな考え方や手法があって、需給はもちろん、事業規模や競合関係、顧客や仕入先との関係性も複雑で、「正解」を見いだすのは極めて難しい。そんなプライシングに「極意」はあるのだろうか。

需給と賞味期限が価格を左右する

 価格を決める基本3要素は「需要と供給」「タイミング(鮮度)」「提供利便」だが、売り手にとっては「資金繰り」も少なからず関わるかもしれない。

 最大要素は需給関係で、需要が上回れば価格はインフレし、供給が上回ればデフレする。需要も供給も先が読みにくく変化が激しいが、流通段階で“競り”的需給調整が機能すれば店頭での振れ幅は抑制できる。流通段階で“競り”機能が働かなければ小売段階だけで需給ギャップを解消するしかなく、極端な投げ売りや高騰が生じやすい。生鮮食品では“競り”が機能するし、短サイクルな生産調整が働く工業製品でも多少はズレながらも需給ギャップが解消されるが、リードタイムの長い水平分業商品ではズレが数カ月にも及んで“賞味期限”が尽き、大量の廃棄が生じることも珍しくない。

  “賞味期限”が迫れば値引きしてでも売り切る他はなく、生鮮食品や日配商品は時間単位の勝負、衣料品など季節商品は週単位の勝負になる。“賞味期限”の限られる商品ではタイミング(鮮度)が価格を左右するから“賞味期限”管理が不可欠な売場作業になるが、食品では常識でも衣料品の売場では全く管理されていない。本部はPOSで掌握していても売場ではアバウトにしか掌握されず、本部が店間移動や値下げを決断して初めて探されピッキングされる。ホントは食品売場のように、その前にピッキングして“売り切り編集”にかけるべきだが、そんなスキルのある衣料品売場は滅多に見掛けなくなった(当社で11月7日に開催する『VMD技術革新ゼミ』で詳しく教えます)。

 ICタグは棚卸しやセルフ精算に役立つのに加え、賞味期限管理にも効果を発揮する。「レコピック」のようなリアルタイムRFID棚管理システムだと盗難防止や賞味期限管理も同時にやってくれるから、食品だけでなく衣料品でも活用すべきではないか。

提供方法も価格を左右する

 顧客がピッキングと持ち帰りの労働を負担する店舗販売が最も安く販売できるはずだが、店舗の不動産コストと運営コスト、在庫の負担とロスがそれを帳消しにし、宅配コストを効率的なフルフィル・プラットフォームで吸収するECの方が安くなって消費の移動を招いている。ECとて受け取りを急げば店舗より高くつくが、都合のよいところへ速く届けてくれる利便に顧客はアップチャージを厭わない。

 もとより店舗販売は時間に余裕のあるサラリーマン家庭の主婦層を主対象にほんの百年ほど前から主流となった小売形態で、それ以前は御用聞きや棒手振りが自宅や職場に届ける訪問販売が主流だった。チェーンストアが勃興する直前の20世紀初頭には欧米日で今日のECブームのような通信販売ブームがあったことも記憶にとどめるべきだろう(筆者の近著『店は生き残れるか』に詳しい)。近年は自分で選び探す手間も厭う人が増え、食材サービスやスタイリストサービスが選んだ商品セットを活用する人も珍しくなくなった。それら“時間節約サービス”には当然、サービスコストが乗せられるが、それが受け入れられ広がっていることも正視すべきだ。

 価格は購買労働(選択/ピッキング/持ち帰りなど)の分担によっても左右されるから、少子高齢化が急進して核家族的家事分担が崩れていく中、時間節約な購買サービスも含め、価格は多様化していく。提供方法やタイミングで同一商品の価格が異なるのは当たり前になるのだから、「一物一価」「正価販売」など時代錯誤な価格政策にこだわってはいられない。