月刊『商業界』、2018年11月号の第2特集「『一品勝負』の人気店」。「くるみ餅」「豚饅頭」「ツナ」「牛カツサンド」……。1つの商品に特化した全国の名店、9店を取材・紹介しています。

 なんでも簡単に買える、現在の成熟した市場でお客さまに選んでもらうことは並大抵のことではありません。そんな中、長く選ばれ続ける「一品」で勝負するお店はどんな工夫や苦労を乗り越えてきたのでしょうか。

 商業界オンラインには、4社を掲載。皆さんも「自信の一品」作りませんか?

納豆工房せんだい屋(山梨・笛吹市)
伊藤 英文 さん

納豆工房せんだい屋 代表取締役 伊藤英文さん
1976年11月、山梨県生まれ。大学卒業後、東京のIT求人広告会社で営業として勤務した後、2012年に(株)せんだいの三代目として代表取締役に就任した。現在、山梨の本店で仕事しながら、週に1回は都心の2店舗をチェックして回る。

 日本の代表的な健康食ながら、どちらかというと副菜と思われている「納豆」だけで商売しているのが「納豆工房せんだい屋」。本社工場と本店は石和温泉で有名な山梨県笛吹市にあり、都内に2店舗を構える。

 渋谷に近い国道246号線沿いの池尻大橋店と、若者の街として知られる世田谷の下北沢店だ。石和温泉にある本店に来る観光客が「普段も食べたい」という要望に応えて出店したという。

東京の好立地で開業 さまざまな種類を販売

店内に陳列されるさまざまな種類の納豆。発泡スチロールのパックだけでなく、松の経木やわらで包まれた商品もある。

 都内では珍しい納豆専門店で、さらにイートインもあるということで、若者からお年寄りまで集客する大人気店となっている。

 池尻大橋店で、三代目代表取締役の伊藤英文さんに店の特徴や魅力などを伺った。

 特に池尻大橋店はメディア関係者も多く居住するエリアということもあり、開店するとすぐにテレビ、新聞、雑誌などで取り上げられたという。

池尻大橋店のイートインのコーナー。カウンター含めて18席。店舗の広さは26坪、下北沢店は12坪とそれほど広くはない。イートインと物販の売上比率はほぼ6対4。

「納豆屋ということで同業がなかったため、好立地に出店できました。ラッキーでした」と伊藤さんは語る。

 納豆好きが次々と来店するようになり、人気店になるまで時間はかからなかった。

「納豆が好きな人たちにとっては一度は行ってみたい店になっているんです。わざわざ大阪や北海道から来てくださるお客さまもいます」

 店内には、30種類近い納豆が並んでいる。大粒、小粒、ひきわり、山梨産の大豆の納豆、さらに刻み梅を入れた納豆、らー油納豆、わさび納豆、わかめ納豆などオリジナル商品も。選ぶ楽しさも魅力となっている。

 全国納豆鑑評会で優秀賞などを受賞しただけに、味はお墨付きだ。

 価格は、180〜300円くらいと大手納豆メーカーの商品よりも高めだが、全て国産大豆で作る商品を、納豆好きに自信を持って販売している。

 従業員は、本社工場で納豆製造を体験し、納豆について研修を受ける。豆の種類や味の違い、食べ方について顧客に説明できるようにしている。

自動販売機で24時間販売 食べ放題やイベントも

24時間販売する自動販売機。賞味期限が迫った商品はサービス品として安価で売られている。

 本店にはイートインはないが、顧客は買った納豆を休憩スペースで食べているそうだ。それを見た伊藤さんはイートインを思い付いたという。

 都内2店舗では、午前11時から午後3時まで8種類の納豆食べ放題定食790円の他、納豆ぶっかけうどん、納豆ビビンバ丼などを提供。取材したのは平日だったが、午後3時前でもほぼ満席だった。

「いろいろな納豆を作っているので、試しに食べてみてくださいねという感じです」と伊藤さん。

 食べた後に納豆を買う人も多い。平均客単価は約800円と納豆の単価を考えると高い。

 また、国内初といわれる納豆自動販売機を1994年から設置し、24時間販売している。納豆用に改造した自動販売機は本店、都内の2店舗の他、山梨県内の道の駅やJAの農産物直売所、東京の高円寺の商店街にも設置されている。

 その他、独自に開発したなっとうドーナツだけでなく、納豆アイスやドライなっとうなど、納豆関連商品も扱う。

 さらに、さまざまな販促活動も展開する。500〜700円で袋に納豆詰め放題というイベントを、納豆の日の7月10日や、11月の周年祭に開催。

 ハート形の容器に入れたバレンタイン納豆、母の日カード付きの母の日セット、厳選された国産大豆の高級納豆を詰める敬老の日の慶寿納豆セットなども喜ばれている。

納豆を使ったスイーツも並ぶ。今後も新しい商品を開発していく予定だ。

 店のモットーは「納豆を楽しんでもらうこと」と社長。納豆の食べ方も店やHPなどで提案している。

「関東の人は納豆をご飯にかけて食べるといいますけど、今トレンドは納豆をおかずとして食べること。いろいろ食べ方があるし、大粒は酒のつまみにもなります」

 最近、健康志向の高まりで納豆販売は順調だ。今まで食べない人もいた関西地方でも、栄養サプリメントとして食べるようになってきたそうだ。

 それだけ人気商品ということで、スーパーマーケット(SM)にはさまざまな種類が並び、大手の安価な商品もある。

「納豆屋さんがなぜ成り立つのかというと、納豆は半分、嗜好品だからです。一度うちの納豆を食べて、おいしいと思ってもらい、毎日うちの納豆じゃなくても、5回に1回でもいいので、うちの納豆を食べ続けてくれたらと思います」

 好きな人にとって納豆はこだわりの食べ物。せんだい屋の納豆のファンがいることが強みとなっている。

 実は、山梨県でSMに卸す規模の納豆メーカーはせんだい屋だけ。山梨県で取れる大粒大豆の納豆は、地元の人に愛される商品だそうだ。

「山梨では大粒の納豆を食べます。納豆には地域性もある。大手だけだと一辺倒になってしまう。地域性を守るためにも、店を長く続けられればと思っています」

 

  • 池尻大橋店(東京都世田谷区)。大正時代、仙台納豆はとても有名だった。創業者が仙台で納豆技術を会得して山梨で起業したことから店名は「せんだい屋」となった。
    企業名/(株)せんだい
  • 店舗名/納豆工房せんだい屋
    本 社/山梨県笛吹市石和町唐柏585-2
    代表者/伊藤英文
    設 立/1961年
    年 商/2億円
    従業員数/30人

 

 

 

※本記事は『商業界』2018年11月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。『商業界』はオンラインストアや紀伊国屋書店など大手書店で発売しております。