月刊『商業界』、2018年11月号の第2特集「『一品勝負』の人気店」。「くるみ餅」「豚饅頭」「ツナ」「牛カツサンド」……。1つの商品に特化した全国の名店、9店を取材・紹介しています。

 なんでも簡単に買える、現在の成熟した市場でお客さまに選んでもらうことは並大抵のことではありません。そんな中、長く選ばれ続ける「一品」で勝負するお店はどんな工夫や苦労を乗り越えてきたのでしょうか。

 商業界オンラインには、4社を掲載。皆さんも「自信の一品」作りませんか?

ミズノオオサカ茶屋町で行われたカスタムオーダー会では100件を超える受注があった。

TSUKUMO(東京・台東区)
中島 広行 さん

TSUKUMO 代表取締役 中島広行さん
1972年7月、神奈川県生まれ。大学卒業後、建設会社で営業として勤務した後に、神奈川県の葉山町にある(有)ゲンベイ商店に入る。ビーチサンダルに力を入れ、売上げを伸ばす。2015年に独立して日本製ビーチサンダル専門店(株)TSUKUMOを設立。東京と神戸にオフィスがある。ビーチサンダルのブランド名は「九十九」。社名は、物を長く使い続けると宿るというツクモの神と、常に100引く1で1を埋める努力を大事にすることから付けられた。

「隙間産業のトップになりたいですね」と日本製ビーチサンダル専門店を営む中島広行さんは言う。

 ビーチサンダルは、履物の中でも下駄箱の隅に置かれるようなアイテムだろう。TSUKUMOはそんなニッチな商品、ビーチサンダルに特化、国内だけでなく世界へと販路を広げている。

 100円のビーチサンダルがある中、同社の商品は1200〜1500円。店舗はなく、ネット販売と卸売りで年間約15万足を売り上げるまでに成長している。

 なぜビーチサンダルにこだわったのか、商品の特徴、他の商品との違いなどを中島さんに聞いた。

神戸の工場にこだわる 品質、特徴を生かして

神戸にある工場、兵神化学で職人1人、パート3人により全て手仕事で作られている。50足、100足という小ロットから注文を受け、最速だと1週間で納品する。今、生産性が上がるように金型を改良している。
台の金型も、熟練した職人によって作られる。硬さや厚みを均一にするためには技術と経験が必要。

 神奈川県の葉山町にあるよろず屋のげんべいで働いていた中島さんが目を付けたのが、ビーチサンダルだった。

「いろいろな商品がある中で、ビーチサンダルだけはお客さんに評価された。色数もあったし、百円均一の商品より長持ちする、履き心地がいいと言われました。それでビーチサンダルでも商売になるなと思ったんです」

 その頃、げんべいで販売していた12サイズ、台(ソール)10色、鼻緒10色のビーチサンダルは人気商品だったが、当時の商品はフィリピンで作られていた。

 ビーチサンダルに力を入れようと決意した中島さんは”日本製”を考えた。実はビーチサンダルは日本発祥の履物で、神戸市長田区に工場があった。

 しかし、阪神・淡路大震災で廃業した工場が多く、国内にビーチサンダルを作る工場はほどんどなかった。中島さんは1軒だけ残っていた工場を探し出し、頼み込んだのだった。

 こうして、発祥の地の神戸で生産される唯一の純国産ビーチサンダルというオンリーワンの”強み”を得た。

 工場では、職人による金型で台を作り、一足ずつ鼻緒をはめるという手作り。天然ゴムの鼻緒は柔らかく足になじんでいく。さらに、外側の鼻緒を長めにして足にフィットさせる気の配りようだ。

 台のゴムは硬度50%と丈夫でクッション性に優れている。安いビーチサンダルは、少ないゴムを発泡させた素材で作られていて耐久性が低い。台の形状は、爪先が低くかかとが高い「テーパー型」で、全体が同じ厚さの「フラット型」に比べて歩きやすい。

 さらに、大きな魅力は台19色、鼻緒12色の228通りの組み合わせを好みで決められること。他のビーチサンダルのサイズはSMLがほとんどだが、15〜28センチまで用意し、近々32センチまで増やすという。色、サイズをオンラインでオーダーして購入できる。台の裏側を見ると「MADE IN JAPAN」の文字がしっかりと刻まれている。

コラボ・OEMで販売チャネルが広がる

京都のSOU・SOUで売られている足袋型のビーチサンダル。インバウンド客にも人気で年間約5000足を販売する。

 当初は、ビーチサンダルで商売できるわけがないなどと揶揄されていたが、ホームページを作り、その魅力を発信したところ飛躍へとつながっていった。

「ビーチサンダルに特化したことによって、いろんな話が舞い込むようになった。通販だけしか考えていなかったが、OEM(相手先ブランドによる生産)やコラボなどが広がっていった」

 コラボやOEMで関わったのは、ビームス、アダストリアのニコアンド、ゴールドウインのヘリーハンセンや、ミズノ、オンワード、三越伊勢丹など、百貨店でのオーダー会、期間限定販売なども。げんべいから独立した後も、順調に販路を広げている。

「商売をやっていると、何も売れない日は怖いから、どうしてもよろず屋的な発想になってしまう。私もよろず屋をやっていたのでよく分かります。単品勝負していると、確かに冬で売上げゼロという日も出てくるが、特化したら販売チャネルが増えたり、やってみないと分からないことが多いです」

 東日本大震災の後、国内消費が落ち込んだときは、上海やヨーロッパで代理店を通じて販売。国外の展示会にも積極的に参加している。日本製ビーチサンダルということで反応はいいそうだ。

 ウイークポイントといえば、少人数の会社だけに、広告宣伝まではできないこと。「ビームスさんのような企業とコラボして、広めていく感じです。履いてもらって、口コミなどを生かしていきたいですね」と中島さん。

 広い人脈も強みだ。サッカー元日本代表の久保竜彦氏はトレーニングに使用。その他、現代表の吉田麻也選手、元プロ野球選手の下柳剛氏も愛用中とのこと。中島さん自身、大学でラグビー選手だったので、ラグビー関係者に愛用者が多いという。

台が牛革で作られているビーチサンダル(左)。右は野球のグローブと同じ革で作られている。価格は、6000円前後を予定している。

 今は、牛革や野球のグローブの革を使用した高価格の新商品も開発中だ。また、今年3月には、「ビーチサンダルの日」を8月3日に登録するなど、さまざまなアイデアを駆使している。

 今後の目標を聞くと、中島さんは大きな夢を見ていた。

「目標は世界。世界で販売していきたい。ビーチサンダルは衰退していて業界も組合もない。そんな中で、小さな会社が世界でどこまで通用するのか考えながら仕事ができて楽しいです」と目を輝かせていた。

 

  • 企業名/(株)TSUKUMO
  • 所在地/東京都台東区寿3-7-1-202
    代表者/中島広行
    創 業/ 2013年
    年 商/ 6000万円
    従業員数/1人

 

※本記事は『商業界』2018年11月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。『商業界』はオンラインストアや紀伊国屋書店など大手書店で発売しております。