月刊『商業界』、2018年11月号の第2特集「『一品勝負』の人気店」。「くるみ餅」「豚饅頭」「ツナ」「牛カツサンド」……。1つの商品に特化した全国の名店、9店を取材・紹介しています。

 なんでも簡単に買える、現在の成熟した市場でお客さまに選んでもらうことは並大抵のことではありません。そんな中、長く選ばれ続ける「一品」で勝負するお店はどんな工夫や苦労を乗り越えてきたのでしょうか。

 商業界オンラインには、4社を掲載。皆さんも「自信の一品」作りませんか?

鯖や(大阪・豊中市)
右田 孝宣 さん

鯖や、SABAR代表取締役、サバ博士 右田孝宣さん
1974年、大阪府生まれ。鮮魚店勤務を経て、97年豪州の回転寿司チェーンに就職。事業拡大に貢献するも帰国し、居酒屋を開業。人気の鯖寿司を広めるため、2007年「鯖や」を設立。17年7月「クラウド漁業」を創業し、漁業革命にも取り組む。

 マグロでも鮭でもなく、鯖に特化した食ビジネスで拡大路線を走るのが、鯖寿司の製造販売と飲食店を展開する「鯖や/SABAR」だ。

ネガティブな魚に可能性を見いだす

鯖やの一番人気商品「とろ鯖棒寿司」。「鯖寿司は酸っぱくパサパサしている」との概念を変える自慢の逸品。1905円。

 鯖やの看板商品「とろ鯖棒寿司」は、従来の鯖寿司のような酸っぱさやパサパサ感がない。とろ鯖ならではの脂が乗っていて、鯖本来の甘味をしっかりと味わえる。1本1905円と決して安くはないが、それだけ払っても食べたくなる、鯖好きいち押しの逸品だ。

 とろ鯖とは、真鯖の中でも脂質含量が21%以上の旬の鯖のことだ。同社では、脂肪含量が23%、魚体650gの「青森八戸前沖さば」を使用している。身がしっかりしている大分のブランド鯖「関さば」に対して身が柔らかく、漁獲量も多い。9月から12月までに水揚げされたとろ鯖を1年分仕入れ、一気に冷凍。冷凍処理すれば、魚介類に寄生するアニサキスの感染を防げるという。

「鯖は大衆魚にもかかわらず、足が早く、虫が湧きやすいため、飲食店でも敬遠されてきた。ネガティブな魚ではあるが、高級なブランド鯖から数百円の鯖まであり、付加価値を表現できる点に大きな可能性を感じた」と、同社社長の右田孝宣さんは振り返る。

 マグロのような顕在マーケットが存在せず、開拓の余地があったことも、鯖寿司一本に絞り込んだ理由だった。

 もともとは鯖嫌いだった右田さんが、鯖と向き合うことになったのは、オーストラリアの回転寿司店で働いていたとき。外国人でも食べられる酸っぱくない締め鯖のにぎり寿司を半年間かけて開発したのがきっかけだ。帰国後、開業した居酒屋でも、同じ調理法で作った鯖棒寿司が評判となり、「鯖や」を立ち上げる発端になった。

「鯖寿司だけでどこまでいけるか挑戦してみては」。そう背中を押したのは、夫人の史江さんだ。「サバイシクル」と名付けた自転車に乗って配達するビジネスを考案。「どうせやるなら楽しくやろう」という史江さんの言葉で、右田さんは覚悟を決めたという。

「嫌な商売はしたくない。それで駄目ならやめればいい。自分たちの思いを伝えるには、一点集中しかない」

 同社は後に倒産の危機に直面するが、創業時の思いと営業スタンスが、危機を乗り越える原動力となっていった。

一点集中のビジネスを成功に導くには

 創業当初はほとんどのスーパーマーケット(SM)から相手にされず、悔しい思いを何度も味わった。そこで、マスコミを活用したPR戦略を重視し、プレスリリースを強化した。すると、バイクで宅配するユニークな販売手法がテレビの人気情報番組で取り上げられ、注文が殺到。SMの催事販売でも行列ができるようになった。

 しかし、催事販売だけでは事業の拡大は難しい。ブランド価値を高めることの重要性を感じていた右田さんは、SMの店先での催事販売をやめ、百貨店販路に切り替える。そして、催事での成果が認められて大丸梅田店、神戸店、心斎橋店に常設店を開設し、阪急うめだ本店にも出店していた。現在、伊丹空港、新大阪駅にも進出、直営店は阪急庄内店のみ。PR戦略とブランディングの両輪で知名度を高めることに成功した。

注文を受けてから専用ブースで焼き上げる「とろさば藁焼き」2200円。
脂の乗った「とろ鯖の造り」は、口に入れるととろけるような食感が味わえる。1380円。

 だが、鯖寿司一本のビジネスも限界を迎えることになる。「工場の稼働率は低く、従業員の生産性も在庫の回転率も極めて低い、非効率なビジネスモデル。商品力とPR力でなんとか乗り越えられていたが、創業7年目に立ち行かなくなった」と右田さん。それでも、創業時の思いを貫いたことで運を味方に付けた。このとき、突破口を開いたのが、ネットを通じて少額投資を募るクラウドファンディングだった。

 13年にはクラウドファンディングで調達した資金でとろさば料理専門店「SABAR」1号店を開業。現在国内外に展開する18店舗のうち、4店舗で同様の方法を導入し、計1000人から約3800万円を調達した。

 SABARでは、こだわりの鯖を使い、38種類もの鯖料理を提供する。これまでなかった飲食業態だけに、鯖好きのビジネスパーソンを中心に鯖になじみのなかったお客も取り込んで、年々ファンが増殖。「もともと鯖に対する期待値が低かったので、いい意味で裏切ることができ、口コミで広がっていった。鯖の概念を変えたのが一番の成功要因」と分析する。

 右田さんは今、おいしい鯖を安定供給するための新たな仕組み作りと技術開発に取り組んでいる。最上級の鯖を仕入れるためにこれまでも人間関係の構築に努めてきたが、さらに踏み込んだ事業をスタート。クラウドファンディングの手法で日本の漁業に革命を起こす「クラウド漁業」に挑戦している。

 目指すのは「漁業版SPA(製造小売業) 」。自分たちで作り育てた魚を販売に至るまで自らの手で行う、一気通貫のビジネスだ。実現するには幾多の困難に遭遇すると思われるが、一点突破のビジネスで身に付けた経営手腕が発揮されることを期待したい。

 

  • 大阪の天神橋筋商店街にある「SABAR 大阪南森町店」は5店舗目。店頭で鯖寿司の販売を行っている。
    企業名/(株)鯖や、(株)SABAR
  • 店舗名/鯖や
    本 社/大阪府豊中市庄内栄町4-21-40
    代表者/右田孝宣
    年 商/11億5717万8000円(鯖やグループ、2018年4月期)
    従業員数/187人(鯖やグループ、2018年7月現在)
    店舗数/18店(国内16店、海外2店)

 

 

 

※本記事は『商業界』2018年11月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。『商業界』はオンラインストアや紀伊国屋書店など大手書店で発売しております。