シンガポールの研究開発・テクノロジー開発地区サイエンスパーク内に開設したカジワラシンガポール。

 東京23区ほどの面積しかない都市国家シンガポール。この小さな国の人々の胃袋に貢献しているのが食品加工機械メーカーのカジワラだ。MRT(地下鉄)の駅ごとに設けられた巨大なショッピングセンターに併設されたホーカーセンター(屋台が密集したフードコート)のセントラルキッチンでは、カジワラの加熱撹拌機が使用されている。同社はいかにしてシンガポール市場に食い込んだのか。シンガポールからタイ、インドネシアなど東南アジア諸国へと活動範囲を広げるカジワラの取り組みを紹介しよう。

東南アジアの中でシンガポールを選んだのは?

 カジワラ(梶原工業)の創業は1939年。主力製品は製餡機や調理用加熱撹拌機、製菓機械など。食品加工ラインのプランニングまで手掛ける老舗の食品加工機械メーカーだ。国際部を通じて中国や韓国、東南アジアへの輸出は手掛けていたものの、長く国内マーケットを中心にビジネスを展開してきたが、海外市場へと目を向け、2008年にドイツのデュッセルドルフで3年に一度開催される世界最大規模の食品加工・包装産業国際展示会「インターパック」に初めて出展を果たす。

 結果からいえば、当初期待していた成果は得られなかったものの、この挑戦から学ぶことは多かったという。

カジワラシンガポールのディレクターであり、ASEAN諸国のビジネスを統括する和才肇氏。

「EU (欧州連合) 加盟国の基準を満たすものに付けられるCEマーク(基準適合マーク)もないまま出展してしまいました。このマークがないとどんなに良い機械でも欧州へは導入してもらえない。この経験を踏まえて、新たに注目したのが東南アジアです。食文化や加工方法が日本と似ている上に、特に規格も必要ない。弊社の主力製品である加熱撹拌機は東南アジアの料理向きだと考え、2008年にはタイの「プロパックアジア」(国際加工包装技術展)の出展を皮切りに、2012年からはシンガポールで開かれる「FHA」(食品見本市)に毎年出展を続けています」(カジワラシンガポールのディレクター・和才肇氏)。

 東南アジアの中で特にフォーカスしたのがシンガポールだ。マーケットサイズは望めないが英語が通じて東南アジアのハブとして機能している。他のアジア諸国にも行きやすい。国内の交通のアクセスは良く、治安も良好だ。小規模ながらも数多くの食品工場が稼働している点も決め手となり、同社はシンガポールに現地法人を設立した。

シンガポールの研究開発・テクノロジー開発地区サイエンスパーク内に開設したカジワラシンガポール。

 ユーザーテスト室を備えたカジワラシンガポールは、アジアを代表する研究開発・テクノロジー開発地区であるサイエンスパーク内に2013年に開設。同社製品に関心を持った顧客が足を運び、その場で生産テストや機械の選定、機能確認、生産技術の開発、打ち合わせも行える施設だ。注文が決まれば機械を日本で生産し、シンガポールや他の東南アジア諸国に輸出する運びである。

 反響は上々といっていいだろう。納期はただいま8カ月待ち。日本国内の需要が急増していることもあり、海外の需要に供給が追いついていないのが現状だ。カジワラシンガポールのスタッフは和才氏ともう1人の他は、日本から出張者の計3人。実質的には2人でシンガポールを中心にASEAN諸国のビジネスを回している。高まる需要にどう応えるか。うれしい誤算に悲鳴をあげながら限られた体制で奮闘を続けている。

競合メーカーの2、3倍するのに選ばれる理由

 なぜカジワラ製品が受けているのか。

 まずは機能の高さだ。カジワラ独自の技術である自転公転する撹拌ヘッドと撹拌子のバネの伸び縮みにより、調理器内部の隅々に撹拌子が行き渡るため、かき残しは全くない。焦げ付きが起こらないので、調理する食品のクオリティも高くなる。耐久性の高さや、調理する料理に応じてさまざまなオプションを付け、カスタマイズできる点も好評だ。塩分の強い料理であればステンレスの材質をグレードアップするといった調整もできる。

 マーケットにはカジワラの2分の1から3分の1の価格で製品を販売する中国や台湾の競合メーカーがひしめいているが、安価な製品の場合、かき取りの機能が貧弱で、焦げ付きも起こりやすい。すぐに壊れやすいという弱点もある。使いやすさ、耐久性、応用力の高さがカジワラ製品の受注を促進しているのである。

 ガスから電気や蒸気の機械にシフトしつつある日本と違って、東南アジアではまだガスが主流であることも、同社の加熱撹拌機にはプラスに働いている。電気や蒸気の機械を導入しようにもそもそもボイラーのない工場が少なくない。だが、カジワラにはガス対応の製品が豊富にそろっている。ガスの直火で加熱しても焦げる心配がない。食品工場への導入が進んでいる背景だ。

 さらにもう一つ大きな理由がシンガポール政府の方針にある。シンガポールでは30代~40代の労働人口が少なく、移民のワーカーも締め付け政策が続いている。そのため、工場で働く単純労働の従業員の確保は難しくなる一方だ。

 人手が望めない以上は機械に頼るしかないと、どの企業も機械による生産効率のアップに力を入れ、そうした企業に政府はいくつもの生産性向上プログラムを提供している。代表的なのが、効率化を図る機械を中小企業が導入する場合、代金の60%が補助されるプログラムだ。

「どれぐらいの効率化が図れるのか、その会社はちゃんと利益を出しているのかといった審査はありますが、それに通りさえすれば機械を購入しやすくなるので、『だったら高くても性能の良い日本製を買おう』と考える企業が多いんです。シンガポール政府のこのスキームは間違いなく有利に働いていますね」

 安いけれど品質が悪く、すぐに壊れる機械と、高価ではあるが性能に優れ、長持ちする機械のどちらを買うか。政府の補助金が出るのなら答えははっきりしている。

カジワラの看板製品である加熱撹拌機。かき残しが全くない機能と耐久性は高く評価されている。