撮影/千葉太一

 8月8日、東京・西新宿の新宿中央公園の裏手に「THE KNOT TOKYO Shinjuku」というホテルがオープンした。13階建てで客室数400という大型のホテルである。同ホテルは新宿ニューシティホテルとして40年間営業していたが、それをいちご地所株式会社が譲受して同社が展開する「THE KNOT」ブランドの「ライフスタイルホテル」にリノベーションした。ライフスタイルホテルとは既存の都市ホテル、ビジネスホテルなどの概念や機能と一線を画した、お客さまのライフスタイルのままで利用し、また地域社会に開かれた存在、というものだ。このホテルの形態は潜在していた需要を掘り起こして、展開事例が増えていくものと予想される。

 同ホテルの1、2階には飲食施設が集まり「MORETHAN」と称している。ここを運営するのは株式会社MOTHERS(以下、マザーズ)である。グローバルダイニングOBの保村良豪氏が2001年6月に設立し代表取締役としてけん引してきた同社は、クオリティの高いカジュアルレストランを展開してきて、ここで14店舗となる。ライフスタイルホテルのメインステージとしてどのような営業を志しどのようなビジョンを描いているのか、保村氏に伺った

「MORETHAN」は迷いがなくなる共通言語

――「MORETHAN」は1階にダイニング、ティースタンド、ベーカリー、2階にグリル、バンケット、ラウンジと6つのコンテンツで構成されています。いわばマザーズの集大成を感じさせます。

ホテルの飲食部分は1~2階に集められ、「MORETHAN」と名付けられている

 当社には、スパニッシュ、フレンチ、イタリアン、ベーカリー、紅茶、この他に和食と焼肉もありますが、この2つの業種以外のコンセプトの全てをこの中に入れ込みました。人種や年代を超えた集いの場です。そのような思いを込めて「MORETHAN」という店名となりました。

「MORETHAN」とは、「~を超える、~以上」という意味ですが、会社の状況やこれからのこと、「THE KNOT」というホテルのブランドとの関係性、そしてここの要員として採用した150人をまとめ上げ、外国人からも日本人からも愛されて、今の時代観を失わず、かつしっかりとお客さまにその意味を伝えられて、6つのコンテンツの全てに合う言葉です。

 私の場合は「MORE THAN YOSHITASKE」です。本当にそう思います。変わらなければなりません。

 マザーズをもっとたくさんの人たちから愛される会社にしたい、チャレンジしたいことがたくさんあります。「MORETHAN」と口に出すだけで私に勇気が湧いてきます。

 新しい業態をつくればつくるほど迷いが生じるものです。しかし、「MORETHAN」、つまり「それ以上のことをやっていこうよ」という意味で私たちには迷いが無くなりました。

 業種や経験値もバラバラな従業員が入ってきても、「MORETHAN」という言葉は、自分が何をするべきかを分かりやすく伝える言葉です。

「MORETHAN」を繰り返して口に出すことによって、合言葉のように浸透していくことでしょう。確かに、ここでは励まし合う言葉として「MORETHANしよう」という言い方が定着しつつあります。

飲食部門を一社で請け負うことで一体感をつくり上げる

――このホテルの中に出店したきっかけはどのようなものですか。

築40年のホテルをリノベーションして誕生した

 去年の夏、グローバルダイニングの先輩であるサイタブリアの石田聡氏から「リノベーションするホテルにレストランを出店するという話をいただいているんだけど、一緒にやらないか」と声を掛けていただきました。ホテル共用部のコンセプトの企画とディレクションは「IDEE」の創始者で流石創造集団株式会社CEOの黒崎輝男氏です。

 黒崎氏らの依頼は、「このような形でつくってほしい」というものではなく、「どのようなことができるか」というものでした。企画そのものを投げかけられた形で、それが私の創造力をくすぐりました。そして、私のイメージを伝えて、このプロジェクトがスタートしました。

 それが現在の形、つまり、1、2階を吹き抜けにして、1階にベーカリーとカフェ、2階にディナーレストランを設けるということです。これを1社で請け負うことによって一体感を出す。それが、それぞれを小間割りにしてテナントを入れていたのではバラバラになってしまい、これまでのホテルと全く変化がありません。

ロビーには簡単なワーキングスペースも設けられている

――「ライフスタイルホテル」というコンセプトをどのように捉えていますか。

 それは、宿泊すること以外の付加価値があるホテルということ。宿泊すると同時に仕事をして、宿泊していない人も待ち合わせをして会話を楽しむ。また、会議やパーティーが毎日行われていて、地域のコミュニティが集まる場所でもあります。

新宿中央公園の緑が間近にあり、ニューヨークのセントラルパークのような風情を感じさせる

 海外のホテルの動向を見ると、一つのホテルが持つ機能全体を一つの企業が賄っています。同じカルチャーを理解している人たちが運営していることで同じカルチャーとしてまとまっています。

 このようなホテルが日本でまだ少なく、リサーチすることがとても困難でしたが、「お客さまの多様性に応えることができる場所」というコンセプトを固めていきました。

 また、今日のお客さまは「カジュアル」というライフスタイルが定着しています。これまでの日本のホテルはこれに対応しきれていません。さらに、ホテルの宿泊部門だけを捉えると、ここで提供されるものはAIにとって代わられることになるではないかと思います。

 では、これからのホテルはどこで勝負していくのかというと、飲食が前に出るべきだと思うのです。そのような時代がこれから確実にやってくる。このようなコンセプトのホテルが世界の大都市で現象として続々と誕生しています。