カルピス オソサファ社長の天野敦夫氏(右)とディレクターの山本晋也氏。試行錯誤しながら着々とタイの市場を開拓している。

 1919年に発売された日本初の乳酸菌飲料「カルピス」は、日本では説明不要のブランドだ。乳酸菌飲料というよりも「カルピスだから」飲んでいるという日本人が大半なのではないだろうか。

 しかし、日本では圧倒的なブランド力を誇る「カルピス」もタイではゼロからのスタート。約20年前に進出してから現在に至るまでの道のりは試行錯誤の連続だった。だが、ようやく明るい光が見えてきている。これまでになかった未知の飲料を異国の地に定着させる難しさに直面しつつも挑戦を続け、市場に味の浸透を図る「カルピス」の試みを追った。

1964年、東京五輪の舞台裏でカルピスは振る舞われた!

 今をさかのぼること54年前。1964年に「カルピス」の初代法人の創業者・三島海雲氏は、東京オリンピックの舞台裏で各国選手団に「カルピス」を振る舞った。甘酸っぱい「カルピス」の味が選手たちに大好評を博したことは言うまでもない。このとき、三島氏はこう宣言したそうだ。

「これからは4年ごとにオリンピックが開催される都市で『カルピス』を発売していく」

 必ずしも創業者の言葉通りには進んでいないが、「カルピス」は現在、アサヒグループ海外8拠点で販売され、輸出も含めると約30カ国で愛飲されている。グローバルな飲料といっても差し支えないだろう。

 ASEANにおいてはインドネシアが好調だ。1995年から「カルピコ」ブランド名で発売をスタートし、63ミリリットル入りの小容量タイプは「子供がおこづかいで買える飲料」として定着している。

 今回、フォーカスするタイはどうか。インドネシアより2年遅れる形で進出したが、率直にいってスムーズに市場を開拓できているとはいいがたい。

1997年に進出、2009年から事業拡大も洪水に見舞われて……

ペットボトル入りの「カルピスラクト」。中身はカルピスウォーターだ。フレーバーはオリジナルを入れて 3種類。ハニーレモン味はタイ人向けの風味。

 タイに進出したのは1997年。当時は味の素カルピスビバレッジとして、味の素の缶コーヒーをメインに、缶入りの「カルピコソーダ」(炭酸タイプ)や「カルピコラクト」(非炭酸タイプ)の生産からスタートした。2009年からは事業を拡大し、ペットボトルの「カルピスラクト」もラインアップに加え、着実に市場での認知度を上げていく。

 だが、上昇気流に乗ったと思われた2011年。味の素カルピスビバレッジは突如、事業停止を余儀なくされた。タイを大規模な洪水が襲い、カルピスの工場も事実上稼働が不可能になったためだ。

 仕切り直しで再び、タイの事業が動き始めたのは2013年。2012年に味の素からカルピス社を買収したアサヒグループホールディングス社は、タイの大手製薬・飲料メーカー、オソサファ社と合弁でカルピス オソサファを設立し、2014年からペットボトル入りの「カルピスラクト」を中心に販売を開始した。

 2016年に投入したミニボトル入りの「カルピスラクトミニ」や、委託生産している缶入りの「カルピスラクトソーダ」も含めて、現在のラインアップは10点。売れ筋ナンバーワンは「カルピスラクトソーダ」。乳酸菌飲料の炭酸タイプはタイでは初。新規性が人気をけん引している格好だ。ペットボトル入り「カルピスラクト」も人気が高いアイテムの1つ。一時中断したとはいえ、タイでは「カルピス」は20年もの歴史がある。知名度も人気も悪くはない。

 しかし、社長の天野敦夫氏によれば「全体的にはまだ苦戦続き」だという。