月刊『商業界』2018年8月号の巻頭特集「存続する百年企業の底力」。百年以上の歴史をもつ老舗小売店を取材し、そのバックグラウンドと長く愛される秘訣を探るという特集です。

 100年の間にどんな出来事を乗り越えてきたのか。いつの世にも通じる変わらない価値とは。本誌に掲載された7店舗のうち4店舗をチョイスして「オンライン」に再掲します。

一日800人が来店する創業大感謝祭は2日間開催。限定品や新鮮野菜の販売の他、抽選会も。恒例の餅つきは、社員やゲストも交えて。しば漬け、ゴボウ、大根の漬物入り餅が来店客に振る舞われる。店先では壬生菜や賀茂茄子、万願寺とうがらしなど、新鮮な野菜が販売される。

 

創業1917年(大正6年)
川勝總本家(京都市)
三代目 川勝康行 さん

代表取締役社長 川勝康行さん。1943年10月、京都市生まれ。京都市立堀川高校卒業後、62年(有)川勝本店に入社。68年社長に就任。73年株式会社に改組、(株)川勝總本家とする。代表者となって半世紀。

「愛と汗」を理念に、人づくりとものづくり
「毎日コツコツやることです」

本店内にある初代の言葉、「愛と汗」の看板。揮毫は当時の天龍寺管長によるもの。京町家らしいしつらえの店内。NHKの朝ドラ(90 ~ 91年放送)に制作協力し、作中店舗のモデルにもなった。

 2017年6月、創業100周年を迎えた京漬物の川勝總本家。「本日は、101年目の初取材ですな」と朗らかに話し始めた、三代目の川勝康行社長。祖父が漬物の製造卸、「各国漬物製造問屋」を起こし、父が続く。京都・大宮通に面した本店に住まいがあり、働く父母の姿から、自分が継ぐのは当たり前と思いながら育った。

 本店内に掲げられている言葉、「愛と汗」は初代が残した企業理念。「会社には、人づくりの愛と、ものづくりの汗がないといかんということです」。今、先代の父の言葉は、社長室に置かれているが、おとなしい人だったので、直接言われたわけではなかった。亡くなった後、金庫の中に見つけたメモにしたためられていたのである。

「店主は一つ一つアイデアを考え、それを成功させることに努力し、日々の商いを前進することを忘れてはならない」

 では川勝社長は、と問うと「まだ考えつかない。僕はなしで終わるかも」と笑う。

1922年当時の本店。創業地は、東山区古門前。後に、この地にちなんだ「祇園漬」を発売。36年に現住所へ移転。
旬の野菜を使った漬物が並ぶ本店店内。各種、試食ができる。合成着色料や合成保存料は一切使われていない。

卸から小売り転換――百貨店進出から店舗開設へ

 25歳という若さで社長に就いた当時、冬は千枚漬、夏は奈良漬を主力に、進物、ギフトとしての需要が増えていた。従来の卸業から、東京や全国の百貨店、さらには台頭してきたスーパーマーケットなどへ出店する小売りへの業態転換も考える中、百貨店出店で大きな力添えとなったのが、京都の老舗、一保堂茶舗五代目社長、渡辺正夫氏だった。

「私は父を早くに亡くしたので、親の代わりをしてくれませんか、とお願いした人です。百貨店への紹介も、分かった、と。『その代わりおいしいものを作らんとあかんで』と言われました」

 かわいがってもらえたが、泣き言を言おうものなら、厳しく𠮟られる。

「そりゃあもう怖い、怖い。でも、偉大な人に出会えました」

 こうして1970年代半ば、東京を中心に百貨店へ出店を開始。今では当たり前だが、食べやすく刻んだ漬物を提供するなど、先駆けた工夫が好評を得た。ケース一本で一日20万円を売る売場もでき、販売方法を他の百貨店が見に来たこともある。同業の出店も増え、京漬物が東京の百貨店の漬物売場を押さえる勢いとなった。

 ただそれ以降、百貨店は出退店を繰り返し、ギフト需要は根強いものの、ここ10年は店舗を集約、直営店の運営に乗り出している。京都市内の観光地や京都駅周辺で、土産物としての販売を始め、2016年には観光客向けのパイロットショップとなる嵐山店を開設。他方、本店は、隣接地に新社屋を竣工したのを機に、観光バスが2台入れるように駐車場を広げ、観光客の受け入れに万全を期している。結果、現在の売上げは、直営店5割、百貨店3割、スーパーマーケット他で2割という構成だ。

和食文化への危機感――「漬物教室」開催

 漬物の中でも、すぐき、千枚漬は京都の地元野菜を使うが、それ以外については、全国から季節に応じた野菜を取り寄せて作る。塩漬けと本漬けの二度漬けが京漬物ならではの加工技術。塩分は少なく、減塩を求める健康志向に合致している。

5月の「晦日漬」の商品名は「幸せの形」。ウリ、カボチャ、パプリカがハート形にくりぬかれてキュート。青唐辛子の辛みが効いたさっぱりとした味付け。
キュウリ、白菜、大根を使ったぬか漬け作りを体験する、「漬物教室」。たるごと持ち帰ることができる。

 23年前からは新しい商品開発を目的に「晦日漬(みそかづけ)」(左写真) に、取り組んできた。

 毎月一つ、新商品を発売。30日から3日間の期間限定販売で、好評なものは定番商品となる。これまで250種以上が登場し、多くの定番商品が誕生した。担当するのは、製造部門の20代から70代まで10人の社員。

「職人という言葉はあえて使いたくないです。誰でもができるわけではありませんが、でも、慣れて、誰でもできるようにしておかないと続きません。熱心な人であればいいです」

 和食文化への危機感が強いという川勝社長。漬物をより身近に感じてもらえるようにと、希望者を募り、「漬物教室」で同社のぬかを使ったぬか漬け作りを教えている。こちらが修学旅行生のプログラムとしても取り上げられる一方、京都府漬物協同組合理事長時代に中心となって働き掛けた、京都市内の学校給食への京漬物提供も15年から実現している。

 中国、台湾からの観光客に売れていることからインバウンド向けの商品も検討中。「土産物として日持ちを考えると古漬けがいいでしょう。見た目もありますが、食べてもらえれば、買っていただける自信はあります」

 川勝總本家の次世代となるのは、専務の川勝隆義氏。大学卒業後、金融業と流通業、さらには住み込みでかぶら産地の農業を経験して入社した。16年、「明日の名工(京都府青年優秀技能者奨励賞)」として表彰され、「息子の発言に頼もしさを感じることが大いにあります」と、目を細める。バトンを託す準備は、整いつつある。

「大層なことではなく、1足す1が2であるように、毎日コツコツやることです」

 100周年の記念誌には、「100年は通過点」という言葉が記されている。

  • 企業名/(株)川勝總本家
    所在地/京都市下京区大宮通五条上る上五条町394
    代表者/川勝康行
    創 業/1917年(大正6年)
    年 商/11億円
    従業員数/120人

 

 

※本記事は『商業界』2018年8月号に掲載されたものです。内容は取材当時のものです。『商業界』はオンラインストアや紀伊国屋書店など大手書店で発売しております。